「二十年近く前の話」(金原ひとみ)

金原ひとみ*1「Us too(私たちも)」『毎日新聞』2017年11月7日夕刊


曰く、


二十年近く前の話になるが、私が高校生の頃友人らの間で毎朝のように話題になっていたのは痴漢の話だった。都心部の高校だったため皆電車通学をしており、今日はこんな痴漢がいた、今日は二人いた、痴漢を指摘して助けてくれたと思った人がその後触ってきた、など、友人らの誰かが毎朝のように痴漢に遭っていた。私も頻繁に遭遇していたため、男性は誰でも痴漢をするものと思い込み、当時の彼氏に対しても、この人も電車に乗ったら痴漢するものかなくらいに考えていた。
また、

(前略)当然楽しいわけではないのだが、実際当時私の周囲で本気で痴漢に悩んでいる子はあまりいなかった。電車に乗れば痴漢に遭い、街にいれば下着を売ってくれ、援助交際しないか、と声がかかる。見知らぬ大人の男性からの接触は性的な意図からのみなされていたため、それが普通のことと思い込んでいたのだ。