「奴隷制」の理由(高橋和夫)

高橋和夫「なぜイスラム国は「奴隷制」の復活を宣言したのか?」http://thepage.jp/detail/20141025-00000008-wordleaf


ISIS*1が「奴隷制の復活を宣言」した件について。「なぜ」に対する高橋氏の答えは、


イスラム国の指導層の考え方では、預言者ムハンマドの時代が理想の世であったとの発想があります。つまり7世紀こそがイスラムの黄金時代だったという認識です。そして、その時代には奴隷制が存在したので、その復活をよしとしているようです。

イスラム国には世界各地から「義勇兵」が、駆けつけています。その大半は男性です。しかもイスラムは結婚の枠外での性的な関係を禁じていますので、兵士たちに妻を与える必要が感じられているのでしょう。イスラム国の解釈では奴隷の女性との結婚はイスラム的に合法であり、その子供は奴隷ではなく自由民の地位を与えられます。現実に兵士たちに妻を与えるという必要性をイスラム神学で合理化したとも言えましょう。
これは、かつて「よど号」でやってきた日本人がそろそろ嫁がほしいよといったのを聞きつけた金正日がよっしゃおいらにまかせとけと日本人女性拉致を命じたというのに、発想としては近いか。
「奴隷化の対象」とされたのが「ヤズィーディー教徒」である理由;

イスラム法では、ユダヤ教徒キリスト教徒の奴隷化を禁じています。イスラム教の認識では、神は人類に対してモーゼなどの預言者を通じてメッセージを送ります。これがユダヤ教です。そして次にイエスという預言者を通じてメッセージを送ります。これがキリスト教です。そして最後に預言者ムハンマドを通じてイスラム教を教えたのです。ユダヤ教キリスト教そしてイスラム教を一連の進歩の段階と考えています。したがってユダヤ教キリスト教も同じ神の教えですから、その信徒は尊重すべきと説いています。したがって奴隷化は神学的に許されないわけです。ところがヤズィーディー教徒の場合は、そのユダヤ教徒でもなければキリスト教徒でもないというので、奴隷化の対象とみなされているようです。
「ヤズィーディー」は日本のメディアでは軒並み「ヤジディー」と表記されている。「ヤジディー」でネット検索しても出てくるのはニュース記事だけで、いったい「ヤジディー」がどんな歴史や教義を持った宗教なのかというのはわからなかった。Wikipediaの項目のないの? という感じ。ネット上を彷徨いて、偶然「ヤズィーディー」という表記を知り、鍵言葉を換えて検索してみて、やっとWikipediaを初めとするアカデミックな情報にありつけたのだった*2
ところで、John Gray氏*3は、ISISが奴隷制の復活を公言したのは最近のことではなく10年前にアルカイーダから分岐して以来ずっとそうだったと述べているけれど如何?
さて、基督教原理主義の中にも奴隷制復活を公言している潮流があることは知っていて損はないだろう*4。1980年代に起こったChristian Reconstructionism*5。ハードコアな基督教原理主義とハードコアな新自由主義の最強のコンビネーション。因みに、Karen Armstrongはこの潮流を「全体主義的(totalitarian)」と批判している(The Battle for God, p.361)*6
The Battle for God: A History of Fundamentalism (Ballantine Reader's Circle)

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