宇沢弘文

経済学者の宇沢弘文先生*1、息を引き取る*2
『日経』の記事;


宇沢弘文東大名誉教授が死去 経済成長論で先駆的業績

2014/9/26 1:30


 日本の理論経済学の第一人者で、文化勲章を受章した東京大学名誉教授の宇沢弘文(うざわ・ひろふみ)氏が18日、肺炎のため東京都内で死去していたことが明らかになった。86歳だった。既に密葬を済ませている。

 1951年、東京大学理学部卒業と同時に特別研究生となり、経済学の研究を始めた。後にノーベル経済学賞を受賞した世界的な経済学者、ケネス・アロー氏の招きで56年に渡米、スタンフォード助教授やシカゴ大教授などを歴任した。68年に帰国し、翌年、東大経済学部教授に就任した。

 得意の数学をいかして60年代、数理経済学の分野で数多くの先駆的な業績をあげた。経済が成長するメカニズムを研究する経済成長論の分野で、従来の単純なモデルを、消費財と投資財の2部門で構成する洗練されたモデルに改良。理論の適用範囲を広げ、後続の研究者に大きな影響を与えた。その業績の大きさからノーベル経済学賞を受賞する可能性が取りざたされたこともある。

 70年代に入ってからは研究の方向性が大きく変化した。ベストセラーになった「自動車の社会的費用」(74年刊)では、交通事故や排ガス公害などを含めた自動車の社会的コストを経済学的に算出し、大きな話題を集めた。地球温暖化をはじめとする社会問題にも積極的に取り組み、発言・行動する経済学者としても知られていた。

 83年に文化功労者、89年に日本学士院会員に選ばれ、97年に文化勲章を受章した。「近代経済学の転換」「経済動学の理論」など多数の著書がある。2002年3月には日本経済新聞に「私の履歴書」を執筆した。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGH2500O_V20C14A9MM8000/


宇沢弘文氏、公害など社会問題批判 多分野に「門下生」

2014/9/26 1:30


 宇沢弘文氏は経済学者として海外でもその名を知られ、ノーベル経済学賞の有力候補として期待された数少ない日本人だった。理論経済学で大きな業績を残した一方で、持ち前の批判精神から1970年代以降は一貫して「人間性の回復」を訴え、行動し続けた。

 宇沢氏が経済学者として頭角を現したのは、50年代後半から60年代にかけての米国時代。初期の業績は、市場による調整機能を重視する「新古典派」理論に基づく成長理論。同氏の名を冠した「宇沢2部門成長モデル」という専門用語ができたほどで、発展途上国の支援策を検討する際などに幅広く利用され、新興国の台頭を陰で支えた。

 しかし帰国して間もなく、研究対象を公害問題や環境問題に移した。74年に出版した「自動車の社会的費用」は大きな反響を呼んだ。熊本県水俣などの公害現場に何度も足を運んだほか、成田空港問題でも円卓会議の座長として国と農家の和解に向けて努力した。

 自らの思想信条へのこだわりと、フットワークの良さも人並みはずれていた。日本のどこかで公害問題が起きていると聞けば、リュック一つ背負って直ちに現地に飛び、実地調査する生活を続けた時期もあった。

 また、学校、病院といった社会的インフラから自然環境までを包含する「社会的共通資本」という概念の重要性を提唱。環境、教育、医療などについても積極的に発言した。地球温暖化を防ぐため、二酸化炭素の排出1トンあたりの税率を1人あたり国民所得に比例させる「比例的炭素税」の導入などを提言した。

 功績は経済理論の構築にとどまらない。教育者としての影響の大きさはよく知られている。2001年にノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・スティグリッツコロンビア大学教授をはじめ世界中の様々な分野で「門下生」が活躍している。日本に戻ってからの教え子では、岩井克人国際基督教大学客員教授が代表格。40歳代の若手も含め、日本で活躍する経済学者の多くが宇沢氏の薫陶を受けた。

(経済解説部 松林薫)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGC2500E_V20C14A9EE8000/

自動車の社会的費用 (岩波新書 青版 B-47)

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宇沢先生については幾度か言及している。勿論、その中には中国の文化大革命への明け透けな礼賛*3とか寄宿学校への礼賛*4への批判も含まれる。しかし、宇沢先生の視野の広大さ、或いは文明論的理想主義まで否定するには及ばないだろう。また、その学問的生涯の後半において強調された「社会的費用」や「社会的共通資本」(Cf. eg. 『社会的共通資本』という概念は、経済学という分野を超えて大いに活用されて然るべきだし、洗練させていかなければならないものなのだろう。
社会的共通資本 (岩波新書)

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