出戻りだった

承前*1

『スポーツ報知』の記事;


保見容疑者、両親死後に孤立と摩擦深める…山口周南市連続殺人放火事件

スポーツ報知 7月27日(土)7時4分配信

 山口県周南市金峰(みたけ)の連続殺人放火事件で、周南署捜査本部は26日、遺体で見つかった5人のうち、被害者1人への殺人と非現住建造物等放火の疑いで、無職・保見光成(ほみ・こうせい)容疑者(63)を逮捕した。被害者5人全員の殺害と2軒の放火を認めている。事件後に行方が分からなくなっていた保見容疑者はこの日午前、現場近くの山中でみつかった。所持品はなく、はだしで上下とも下着姿だった。

 保見容疑者は、事件が起きた周南市金峰の出身。一度故郷を離れ、Uターン後に両親と死別し、一人暮らしだった。

 農林業を営む両親に育てられ、少年時代は別の名前を名乗り、周囲からは「わっちゃん」と呼ばれていた。10代後半に川崎市へ移り、左官の修業を積んだ。約20年前に故郷に戻ったが、当時、保見容疑者の自宅に出入りしていた女性(64)によると、技術を磨いた腕を振るい、自宅を建築。地元のテレビ番組に取り上げられ、集落でも反響を呼んだ。

 周囲との関係が変わり始めたのは、両親をみとった後の、ここ数年だった。近所の男性は「声を掛けても答えない。冠婚葬祭にも関わらない。回覧板も受け取らないので、飛ばすようになった」と話す。自宅の窓には「つけびして 煙り喜ぶ 田舎者」と書かれた紙が貼り付けられ、庭にはアヒルのオブジェ、屋根には陶器の天使、車庫には上半身裸のマネキン人形が置かれるなど謎めいている。山本さん宅へ向け、実際には映らない偽装型の防犯用カメラを設置した。

 保見容疑者は村おこしを提案すると反対され、草刈りをして苦情を言われるなど、周囲とのあつれきを重ねていた。飼い始めた犬をめぐり「臭い」と言われるトラブルも。河村さんはかつて「犬が寄ってきたのでよけたら『叩き殺す気か』と言われて怖かった」と漏らしていた。2011年の正月には「周囲から悪口を言われ孤立している」と周南署に相談。1〜2時間話すと「すっきりしました」と納得したように帰った。

 お互いが顔見知りで、住民が「家族のよう」に暮らしていた集落での孤立。かつて仕事で集落に出入りしていたという男性会社員は「一度関東に出たよそ者として(周囲と)うまくいっておらず、長年のうっぷんがたまっていたのではないか。ある意味かわいそう」とおもんぱかった。

最終更新:7月27日(土)7時4分
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130726-00000211-sph-soci

昨日は『産経』の記事を参照して、「ネイティヴ/ニュー・カマーという対立」と書いたのだが、この保見さん、謂わば〈出戻り〉だったんだね。故郷を離れていた20年余りの時間は、この人の「分人」(平野啓一郎)の形成に大きな影響を与えたということは想像に難くない。「分人」は「相手との反復的なコミュニケーションを通じて、自分の中に形成されてゆく、パターンとしての人格」であるが(『私とは何か』*2)、この20年余りの間に、保見さんにとって、ムラビトたちの「分人」は全く更新されなかったということである。逆方向、村人たちの立場から見ても同様であろう。「少年時代は別の名前を名乗」っていた。この意味は?
私とは何か――「個人」から「分人」へ (講談社現代新書)

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