彼も出戻りだった?

承前*1

淡路島の殺人事件を巡って。この事件のことを聞いて、2013年に山口県周南市で起こった事件を思い出したのだった*2。その犯人が殺人に至った地域共同体からの孤立化は彼が村を出て都会で暮らしていたのに親の介護のために出戻ってきたことにその幾らかは由来していた。それとは対照的に、淡路島の容疑者、平野達彦はずっと家に引き籠もっていて、ムラを出たことがないのだと思い込んでしまった。しかし、『毎日』は以下のように伝えている;


淡路島5人殺害:容疑者、引きこもり生活送る 半年前帰郷

毎日新聞 2015年03月10日 02時30分(最終更新 03月10日 02時52分)


 兵庫県洲本市の民家2軒で9日、計5人が刃物で刺され死亡した事件で、殺人未遂容疑で逮捕された平野達彦容疑者(40)は現場近くの自宅で父と祖母との3人暮らし。近くの70代男性は「小中学校時代は弟思いで、機械いじりが好きだった。優しかった『たっちゃん』がなぜ」と絶句した。一方、近所の人によると、平野容疑者は引きこもりがちの生活をしていたという。

 知人男性によると、平野容疑者は約半年前まで兵庫県明石市のアパートに居住。昨年8月ごろ、「出て行かないといけない。ここには住めなくなった」と電話で連絡してきたという。男性は「相手の目をじっと見て話し続けるなど、精神的に不安定な様子を感じた」と話す。

 洲本市に戻ってから、近隣住民は平野容疑者が外出する様子をほとんど見ていない。一方、平野容疑者は会員制交流サイトのフェイスブック(FB)やツイッターなどに本名で登録し、被害者や近隣住民を批判する書き込みを繰り返していた。

 今年に入って近隣住民への批判が増え、今月は1日50件以上書き込むこともあった。今月5日には、事件で殺害された浩之さん家族の名前や自宅の地図、毅さんの名前や顔写真を掲載した上で中傷していた。【久野洋、宮嶋梓帆、大森治幸、道下寛子】
http://mainichi.jp/select/news/20150310k0000m040126000c.html

こいつも出戻り(homecomer)だったのね。また、精神の歪みを解く鍵は明石市にある。
しかし、別のソースだと、様子は全く変わってくる。
J-CASTニュース』の記事;

淡路島5人殺害「平野達彦」誹謗中傷ネット書き込み1日50件
2015/3/10 11:38


兵庫県・淡路島の洲本市中川原町できのう9日早朝(2015年3月)、2軒の民家で計5人の男女が殺害されているのが発見され、近くの無職、平野達彦容疑者(40)が殺人未遂の容疑で現行犯逮捕された。平野はインターネットで被害者を中傷する意味不明な書き込みをしていた。事件への関与を認めているが、動機については不明だ。


中学のころから引きこもり・・・父親「見かけたら110番してほしい」

殺害された無職の平野毅さん(82)・恒子さん(79)夫婦、平野浩之さん(62)・方子(まさこ)さん(59)夫婦、その母の静子さん(84)の5人は、いずれも刃物で刺されたとみられている。加害者も被害者の2家族も名字は同じだが、それぞれに親戚関係にはない。
警察捜査も難しい

現場は山あいの静かな集落で、達彦は父親と祖母の3人暮らしで、6年前から離れの建物に住んでいた。中学のころから引きこもりがちで、明石市の病院に通院や入院をしており、1年半前に退院した。近隣同士でも「(達彦容疑者を)20年前に見ただけだ」という人もいる。

なにか予兆があったのか。先月に達彦の父親が被害者の毅さんに「息子が外出しているのを見たら110番通報してほしい」と話していた。パトカーが見回りに来ていたという話もある。

達彦は1日50回以上もネット書き込みをしていて、被害者の名前や住所を出して一方的に非難していた。「各地で電磁波犯罪と集団ストーカー犯罪を行っている」などと意味不明なこともあり、被害者の親族がつい先日、市の法律相談を訪れていた。


書き込み内容は意味不明ゴチャゴチャ

司会の羽鳥慎一「ネットへの書き込みはかなりあったようですね」

赤江珠緒キャスター「内容も相当不明ですね」

コメンテーターの岩上安見(ジャーナリスト)「異常な兆候といえば、ネット上のことですよね。よく見ると、被害者ばかりでなく、妄想や関係ない人のことも多いんです。特定の標的だけを狙ったというのではありません。いくつもいくつも、いろんなものがごちゃごちゃに書いてあるんです」

羽鳥「そうすると、警察の対応も難しいですね」

現場を取材したレポーターの高村知庸「支離滅裂な誹謗中傷したことが、責任能力としてあるのかどうか今後は問題になります。また、本人が動機をどう説明するのか注意していきたいと思います」
文 一ツ石 | 似顔絵 池田マコト
http://www.j-cast.com/tv/2015/03/10229917.html?p=all

『毎日』の記事を信ずれば、平野達彦は精神を病んで明石市に(主観的に)いられなくなったので、淡路島の自宅に戻ってきたということになる。後者を信じれば、そもそも海峡を渡って明石市に行ったのは、精神を病んでいたため、入院のためだったということになる。戻ってきたのは、症状が幾分か緩和したから? どっちなのだろうか。
さて、笑ってしまったのは、『Yahoo知恵袋』のエントリー;

ID非公開さん

2015/3/1014:31:33


平野達彦容疑者は、統合失調症の可能性が大きいですか?

このYahoo!知恵袋にも平野容疑者がツイッターで書いているようなことを毎日、書いている方がいるみたいですが・・・

また、統合失調症って治る病気ですか?
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q11142948146

素人ながら、「統合失調症」ではないだろうと思った。幾ら妄想が激しくても、自己の内外という区別は侵されていないように思った。


碓井真史*3「妄想性障害とは:淡路島洲本市5人殺害事件から」http://bylines.news.yahoo.co.jp/usuimafumi/20150309-00043674/


曰く、


5人が殺害された大量殺人事件です。事件の背景はまだ不明ですが、ネット上で奇妙な書き込みをしていたこと、そして「妄想性障害」と報道されています。

精神鑑定など受けていないのに「妄想性障害」という具体的な診断名が報道されているということは、犯行前の医師による診断が妄想性障害なのでしょう。妄想性障害だから危険な犯罪を犯すわけではありませんが、診断名が出ている状態なのに犯罪を止められなかったのは、とても残念です。

また、

1999年に発生し、5人が死亡した「下関通り魔事件」*4では、一審では妄想性障害との精神鑑定結果が採用され、責任能力はあるものの、その力が弱っている心神耗弱状態とされました。しかし、最高裁では認められず、死刑が執行されています。

2008年に発生し2名が死亡した「元厚生事務次官宅連続襲撃事件」*5は、「愛犬のあだ討ち」が動機であり、弁護側は妄想性障害を主張しましたが、裁判では完全に責任能力がありとされ、死刑判決がでています。