- 作者: 綾部恒雄,石井米雄
- 出版社/メーカー: 弘文堂
- 発売日: 1995/02
- メディア: 単行本
- クリック: 3回
- この商品を含むブログ (1件) を見る
寺田勇文、森正美「宗教と世界観」(綾部恒雄、石井米雄編『もっと知りたいフィリピン 第2版』*1、pp.1011-141
「先スペイン期のフィリピン住民の宗教的パンテオンの構造」について;
(前略)頂点には宇宙の秩序を維持するバトハラ・マイカパルという創造の神、つまり至高神が奉られていた。パトハラのもとには、耕地の守護神マイルパ、水の神ノノ、豊饒の神イカパティなどの複数の神々が奉られ、さらに人間に近いところにはアニートと総称されるさまざまな霊が宿り、地上界と天上界との境界領域に立ち現れて人間と交渉をもつと信じられていた。人間がふだん直接に交渉を持ったのは、主としてこうした諸精霊、つまりアニートであった。そして、諸精霊との交渉にあたってはカタロナンとかババイランと呼ばれた土着の祭司(シャーマン)が、精霊や神々の霊を憑依したり、そえれらの霊と交信し、霊を慰撫するための儀礼を執り行った。
バトハラの語源はサンスクリット語であることから、インドからみて東南アジアのなかでは最果てのフィリピンの島々にまで、インド化の波が押し寄せていたことがわかる。また、霊魂をあらわすアニートという語は、フィリピンだけでなく、他の島嶼部東南アジアでもミクロネシアの島々でも、ほぼ同様の意味を持つ語彙として使われている。
先スペイン期の精霊信仰の形式は、キリスト教にもイスラムにも帰依することのなかった内陸山岳部の少数民族社会でひきつづき保持されている。ルソン島北部のボントック族、ルソン島中央部のネグリート族、ミンドロ島高地のハヌノオ・マンヤン族の宗教と世界観に関する人類学者の報告*2(略)などに明らかなように、長い年月の間にさまざまな変容はとげてはいるものの、アニートを中心とした精霊との関係を基軸とする宗教の構造はかわっていない。(pp.103-105)
フィリピンの「インド化」について、会田濤「民族と言語」では、
と書かれている。
インド文化の影響は、サンスクリット起源と考えられる多くの単語、竹に刻んだ文字、伝統宗教にみられるベーダ的要素などに認められる。インド文化の波及は、一〇世紀以降、ヒンドゥー化されたマレー人との交易や、かれらの移住によってもたらされたものと考えられる。今日のフィリピン社会においては、インド文化の影響は比較的軽微で、政治的・経済的側面には大きな影響を与えていない。(p.90)