「らい」or「ハンセン」(メモ)

国の責任―今なお、生きつづけるらい予防法

国の責任―今なお、生きつづけるらい予防法

島比呂志、篠原睦治『国の責任 今なお、生きつづけるらい予防法』*1から少しメモ。第1部「いま、なぜ、らい予防法を問うのか」から;

篠原 (前略)まず、昨今、「らい」という言葉を使わないで、「ハンセン病」と言い換えてしまっていることについてご意見をうかがいたい。と言いますのは、ぼくは、「らい」の歴史と現実を直視するためには、「らい」という言葉とその響きにこだわり続けるほかないと思っています。島さんも、「らい」という言葉で「らい」の問題を語り続けておられますよね。
島 「らい」ということで、差別と偏見が続いてきたのですから、やはり「らい」ということでその間違いを直さなければならない。名称を変えたから、それらがなくなるというものではないわけだし、「ハンセン病」で解消できるというのは錯覚であり逃避だと思いますね。
ぼくは、戦後まもなく、ものを書きだした頃に特に意識して、漢字の「癩」という言葉を使いましたね。社会生活をしていた頃、新聞で「癩」という字を見るのも恐ろしいというか、そういう新聞があれば隠したくなるような気持ちでした。そういう字を逆に意識して使ってやろう、そのことによって乗り越えなくてはならないと思いましたね。最近は、たまに「ハンセン病」を使っているかも知れませんが。
篠原 (略)ところで、「らい」という言葉は古いんですね。
島 律令国家の時代の古文書に出ているんですが、「癩」という漢字も病気そのものも中国から朝鮮半島を経て、日本に入ってきたようですね。
篠原 「ハンセン病」は、菌の発見者としてのハンセンの名誉を讃えて「上」から降りてきた感じがしますが、患者たち自身が「らい」と呼ばれたくないということもあって、それに代わって、「ハンセン病」と呼ばせようとしたということもあるのでしょうか?
島 そうですね。「らい」という言葉を口にするのは抵抗があるんですよね。昭和二七、八年、全患協(全国ハンセン病患者協議会の略称)のらい予防法改正闘争のときに、「らい」という呼称を「ハンセン病」に改めてほしいという訴えをしました。ぼく自身は、「ハンセン病」だとスラスラ言えるというのも、逃げみたいな感じがしていましたけれどね。
今でも、らい予防法とか日本らい学会とか、正式には「らい」と呼んでいますけど、マスコミはほとんど「ハンセン病」ですね。でも、そこでも括弧して「らい」と注釈してありますから、読む人は、「ハンセン病? 新しい珍しい病気かな?」と思っていると、すぐ後に「らい」とある。「なあんだ、あの病気か」となって、逆に二度意識させますよね。
篠原 おっしゃることに同感です。時代に逆行した使い方は、自分のなかでも躊躇がありますが、分脈や歴史を凝視するために、ぼくもあえて「らい」という表現を使い続けます。(pp.13-14)
「癩」(or「ハンセン病」)に関しては、http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100220/1266666021 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100221/1266718304 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100429/1272510800も。