ベタにメタ

承前*1

ロスト・ストーリー (河出文庫)

ロスト・ストーリー (河出文庫)

6月末に読了した伊藤たかみ『ロスト・ストーリー』についてちょっとメモ。
全体的な印象を言えば、ベタにメタということになる。この小説では「物語」を探すことがテーマになっている。そういう意味では、「物語」についての物語としてメタである。しかし、そのメタなるものの語り方は(恥ずかしくなるほど)ベタであった。偶然か必然か知らないけれど、とにかく共生することになってしまった登場人物たちの日常生活の描写の仕方には保坂和志の影響が明らかに認められて、いい感じじゃんと思っていたら、後半部に入って、ベタなメタ語りに突入するとともに、読む私としても力が抜けてしまった。特に、登場人物、特に主人公/語り手である「僕」を日常から逸らそうとする「赤いチェックのコートを着た男の子」や「松葉杖をついた男」というキャラクター*2。彼らの思わせぶりな身振りや台詞を読んでいて、昔よく観た小劇場の芝居を思い出してしまった。アングラ芝居が活字になっているような感じなのだ*3。ただ、彼らは絶叫はしないが。また、あの不思議な地下鉄ホームという設定も演劇的だ。こうした思わせぶりな仕掛けが作者にとってメタなるものを語りだすために必要だったということはわかる。しかし、小説の表現としてはベタすぎ*4
ところで、「解説」にて、中条省平氏がこの小説と村上春樹の『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』を比較しているな(p.377)。

*1:http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100611/1276250665 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100628/1277750059

*2:「赤いチェックのコートを着た男の子」は実は冒頭から登場するのだが。

*3:そういえば、登場人物の「晴美」は小劇場の役者である。

*4:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090706/1246906032