Andrew Anthony “Lost in Cambodia” http://www.guardian.co.uk/lifeandstyle/2010/jan/10/malcolm-caldwell-pol-pot-murder
スコットランド生まれの歴史学者Malcolm Caldwellの生涯。ヴェトナム反戦運動にコミットした後に、クメール・ルージュの熱烈な信者となり、1978年にポル・ポト政権(民主カンプチア)からカンボディア取材旅行に招待され、ポル・ポト本人との会見を果たした同じ日に、ポル・ポトの指示により殺害された。
Malcolm Caldwellとともに、Elizabeth BeckerとRichard Dudmanという2人の米国人ジャーナリストもカンボディアに招待されていたが、この記事ではElizabeth Beckerの証言を引用している。その中で、彼女はCaldwellが(ポル・ポト派の虐殺を最初に告発した本である)仏蘭西人カトリック宣教師、François PonchaudのCambodia: Year Zeroを読んでいなかったということを語っている。さらに、彼女はPonchaudの本を当時ノアム・チョムスキー*1が徹底的に批判していたということに言及している。この記事でも言及されているが、1980年代において、ヴェトナム及びヴェトナムが擁立したヘン・サムリン政権は国際的に孤立し、その一方、ポル・ポト派(というか、シアヌーク派などとの連立政権)は、米国、中国、日本、ASEANなどの支持を受け、カンボディアを代表する正統な政権として国際的にも認知されていた。この背後には、勿論当時の米国、蘇聯、中国を巡るパワー・ポリティクス、また当時の米国レーガン政権の(アフガニスタンに端的に見られたような)〈蘇聯の敵はみんな友だち〉的な発想があったわけだが、そのようなパワー・ポリティクスから自律していた筈の左翼陣営においても、ポル・ポト派の虐殺を糾弾する声よりもヴェトナムの侵略を批判する声の方が大きかったことも事実なのだ。勿論その前提として、(それ自体としては正しく・健全なものであった)左翼陣営における反蘇聯的な意識があったわけだが、チョムスキーにもその責任(の少なくとも一端)はあるといえるだろう。私が大学に入った頃、キャンパスでは中越戦争やカンボディア問題を巡って、ポル・ポトを支持する毛沢東主義者と蘇聯派や第四インターとの間の争いには激しいものがあった(勿論、殺し合いにまでは発展しなかったが)。それで、ポル・ポト派による虐殺という事実を否認する某毛沢東主義者がチョムスキーという米国のえらい学者も虐殺という事実を否定しているよと言っていたことを思い出した(彼は言語学の知識があるようには思えなかった)*2。
上の記事に戻ると、結末に近い、
という1節は読んでいて、あまりに痛い。また、裁判の被告となった唯一の存命中のポル・ポト派幹部であるKaing Guek Eavの”I clearly understand that any theory or ideology which mentions love for the people in a class-based concept is definitely driving us into endless tragedy and misery."という告白も。また、引用された仏蘭西の哲学者Jean-François Revel*3の”Utopia is not under the slightest obligation to produce results: its sole function is to allow its devotees to condemn what exists in the name of what does not.”という言葉。
Caldwell didn't trouble himself with the means in Cambodia. He was too focused on an imaginary end, which meant that he never glimpsed the deadly real one approaching.
ところで、Malcolm Caldwellについては、Wikipediaの情報*4のほか、
http://www.questia.com/googleScholar.qst?docId=97733155
も参照のこと。
それから、クメール・ルージュの内幕を最初に明らかにしたのは仏蘭西の民族学者François Bizot。1971年にカンボディアで佛教に関するフィールドワークを行っている最中に、クメール・ルージュの捕虜となり、米国のスパイ容疑で3か月間拘束されたが、突然釈放された。著書に、The Gateあり。