ベートーヴェンとか白紙答案とか


私が小学生の頃、1971年4月まで家で朝日新聞をとっていたが、同年5月から毎日新聞に切り替えた。だから、朝日、毎日のどちらに載っていた記事なのか記憶がさだかではないが、たぶん毎日だったと思う。中国でベートーベンの「第九」が「ブルジョア芸術」だとして批判されたという記事が出ていたのだった。

この件は、もうネットで検索しても当ダイアリーや『きまぐれな日々』に過去に書いた私の記事が引っかかるだけで、いつ、どの新聞に掲載された記事かも正確に知ることは未だにできずにいる。朝日にせよ毎日にせよ東京と大阪で紙面が違い、私が子供の頃に読んだのは大阪本社版だから、最悪縮刷版にも載っていない可能性がある。
http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20111210/1323451546

文化大革命ベートーヴェンの話はたしか、立ち読みの『週刊朝日』で読んだ気がする。何故憶えているのかというと、当時周鉄生という学生が試験に白紙答案を出して英雄視されたということがあって、記事はベートーヴェン批判と白紙答案のネタがセットになっていて、ベートーヴェンが批判されて白紙答案が賛美される中国って不思議! という感じのノリだったからだ。
周鉄生の白紙答案事件については、JohnGittings The Changing Face of China: From Mao to Marketのpp.84-85に記述がある。なお、周鉄生という人は文革終了後に「反革命」罪で逮捕され、1983年に懲役15年の判決を受けて服役したが、1993年に釈放され、その後は事業を興して成功したという(p.338, Note 8)。
The Changing Face of China: From Mao to Market

The Changing Face of China: From Mao to Market

文革中には(蘇聯を含む)西側の文学や藝術は基本的に禁止されていたわけで、当時の雰囲気に関しては、『小さな中国のお針子』とか『小さな村の小さなダンサー』といった映画を観ていただければいいのではないかと思います。ただ、外国の文学書や学術書は、或るレヴェル以上の幹部が〈反面教師〉として読むために密かに翻訳されていたということはあるわけですが。
小さな中国のお針子 [DVD]

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小さな村の小さなダンサー [DVD]

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また、http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20111211/1323581981を巡って。以前「蘇聯(また東欧)はアヴァンギャルドを抑圧していたせいもあって、音楽にしてもバレエにしても、オーソドックスなクラシックが西側よりもよく保存されていた」と書いたことがあります*1。『上海書評』には「海上書房」という書斎拝見的なインタヴュー記事が連載されているのだけれど、10月30日号の徐暁林「金老師在1954」という記事(p.16)には、金重遠という1934年生まれの仏蘭西近代史専攻の先生が登場している。金氏は1954年から1959年までレニングラード大学に留学していたが、蘇聯留学時代は人生で最も幸福な時代だったという。レニングラードの本屋では当時(蘇聯で印刷・発行された)メリメやヴィクトル・ユーゴーロマン・ロラン仏蘭西語の小説が格安で売られていた。蘇聯において20世紀のアヴァンギャルドモダニズムが抑圧される一方で19世紀の古典が保護・保存されていたというのは、文学においても当て嵌まるようだ。