還元主義批判へ

http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100106/1262774038に関係があるのか。

http://kurokawashigeru.air-nifty.com/blog/2010/01/18-9819.html


朝日新聞』の「脳科学研究の成果が、脳ブームに伴って誤って広がっていることなどを懸念し、日本神経科学学会は8日、研究指針の改定を発表した」という記事に触れて、黒川滋氏曰く、


保守的イデオロギー脳科学の装いをして、科学的なおしつけとして地域社会で流行している。

やっぱり粗雑な調査の結果を、科学として論文公表しているんだと思うし、その程度のものだから伝聞で話している人は信仰として言っているので、反論してもしょうもないものだとわかる。まさに神話である。
しかし、神話・信仰でしかないものが、都会のローカルな世界では、変な影響力を持っている。神話とほとんど無縁で仕事をしている人にはそんなバカなと思うが、地域社会では、インチキな科学を装っている脳研究の結果についてさしたる反証もしないまま、教育行政を動かし、児童福祉に影響を与え、コミュニティー活動や、地域福祉活動にまで言い募られている。
子育て世代が標的とされ、脳科学で裏付けられていることになっていることが神話として流布されている。そして、保守的イデオロギーが科学の装いで反証も受け付けず押しつけがましく垂れ流され、共働きは良くない、長時間保育は情緒不安定にする、自然の多いところに子どもを連れていかないとグレるなどと言われたりするものだから、嫌になってくる。「早寝、早起き、朝ご飯」などのかけ声なんかそれそのものである(勤労者としての道徳訓としてはそんなに間違ってはないが、脳研究の結果みたいに言うと話がとんでもなくおかしくなるし、押しつけがましくなる)。弁当に愛情かけて時間かけて手作りしないと子どもがグレるみたいなのも流行したっけ。
こうした脳研究はまた、障がい者の人がいる家庭をさらに追い込んでいく。
http://kurokawashigeru.air-nifty.com/blog/2010/01/18-9819.html

まあ、前にも書いたけれど、科学の成果に(センス・オヴ・ワンダー以外の)〈現世利益〉を求めてしまう非科学者の心性を批判の対象とすべきであろう。いくら専門の研究者が自制をしたとしても、「脳科学」の成果は公共財として全ての人に開かれているわけだから、それを(悪用であれ善用であれ)イデオロギー的に利用しようという行為を防げられるわけはない。「保守的イデオロギー」の「科学の装い」を批判するためには、批判する側の市民が科学的な知識を習得し、科学の限界に関する哲学的思考に磨きをかける以外に途はないとはいえる。
さて、科学批判ということでいえば、黒川氏いうとこころの「脳研究の暴走」に対しては還元主義批判を突きつけるべきだといえるだろう。社会学を心理学に、心理学を生物学に、生物学を物理学に還元することはできないだろう。何故なら、そうした還元主義は次元(order)の飛躍に伴う創発特性(emergent properties)を無視しているからだ。
科学と道徳の関係については、http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080115/1200402676 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080203/1202054628 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080220/1203523922も参照のこと。「脳研究」の悪用については、「ゲーム脳」を巡ってのhttp://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060116/1137440431 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060308/1141789582 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060412/1144809567 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080710/1215616507、「早期教育」を巡るhttp://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090911/1252702033も参照のこと。また、「脳科学」への哲学的批判として、河野哲也『暴走する脳科学』をマークしておく。
暴走する脳科学 (光文社新書)

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