通時的比較の無意味性など

承前*1

選挙の前日に某マイミクさんから教えていただく。
「全国学力テスト」について、先ず『毎日』の記事;


国学力テスト:結果公表 揺らぐ意義、徒労感も 変わる難易度、経年比較はできず

 「序列化や競争をあおるものではない」。文部科学省が唱え続けた全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果が公表された。順位変動を巡り各地の担当者は一喜一憂の表情を見せたが、現場からは「結果だけで判断するのはやめて」と徒労感のにじむ声が漏れる。衆院選後の政権が視野に入った民主党内では現行方式に疑問の声もあり、テストの意義や存続は不透明さを増している。【まとめ・井崎憲】

 過去2回の成績が低迷し「なんだこのザマは」と激怒した橋下徹知事の陣頭指揮で学力向上に取り組む大阪府。中学校は前回並みながら、小学校は国語Bの平均正答率が45位から34位に上昇し「心配で夜も眠れない」と漏らしていた橋下知事は27日「正直ほっとしている。取り組んできた成果が多少表れているように思える」とコメントした。

 府教委幹部は「知事発言はいいプレッシャーになりプラスに働いた」と振り返るが、府内の教員には異なる受け止め方も多い。

 小学校に勤める女性教諭(56)は「順位が上がったのはたまたまではないか。もっとじっくり子供に向き合わせてほしい」と、テスト対策優先の取り組みより現場に余裕が生まれる教育行政を求めた。中学校の男性教諭(53)は「現場は悪戦苦闘している。点数が低いからといって『頑張っていない』と簡単に言ってほしくない」と反発した。

 全員参加方式のテストを毎年続けることには、さまざまな点で疑問の声がある。

 今回の中学校の国語Bは、全国の平均正答率が前回比13ポイント上がり75%となったが、生徒から「時間不足」の声が多かった前回の反省で問題分量を減らしたことが大きい。分量や難易度が毎年異なるため、経年比較できないことは文科省も認めている。さらに私立校の参加率は毎回下がり続け、今回は5割を切った。参加する私立校の平均正答率だけを見ても、全科目で公立を大幅に上回る。「不参加の私立も含めた正答率なら、私立が集中する大都市圏が正答率でもっと上位になる」と現データを疑問視する声は根強い。

 衆院選の結果次第ではテスト形態が変わる可能性もある。民主党内の検討機関では「抽出調査で十分」と指摘する声もあり、支持母体の日本教職員組合も現行方式に反対している。民主政権になった場合、規模縮小の議論が本格化するとみられるが、自民党マニフェストに「今後も継続」と明記した。

 すでに今年度予算には10年度のテスト作成等の約15億円が計上され、文科省は準備作業に着手している。省幹部は「来年度実施分を大きく見直すのは難しいが、時の政権の判断には従う」と話した。
 ◇秋田、トップクラス維持

 2年連続で小中全8科目で最下位だった沖縄県は、今回は小学校の国語B(活用)と算数A(知識)で最下位を脱し、ほか4科目の正答率も全国平均との差を縮めた。好成績の常連・秋田県と09年度から小中学校教員の相互交流を始めたほか、授業開始時刻や家庭学習の徹底を掲げ、全小中学校から授業改善プランを提出させた。県教委担当者は「素直にうれしい」と胸をなでおろした。

 小学校の国語で大きく順位を上げた徳島県は、読み聞かせや一斉読書の時間を設け「学力向上推進員」も各校に1人ずつ配置している。県教委の津守美鈴・学力向上推進室長は「取り組みの成果が出たのではないか。手ごたえを感じる」と満足そうだった。

 今回もトップクラスを維持した秋田県は子供たちの規則正しい生活習慣で知られ、小規模な学校が多いため、学校ぐるみの熱心な指導に定評がある。

 今春には秋田に焦点を当てた教育書籍「秋田県式家庭学習ノート」「頭がいい子の生活習慣 なぜ秋田の学力は全国トップなのか?」が相次いで出版され、注目度は高まるばかり。27日に会見した根岸均教育長は「教育的土壌が効果的で安定していることの証し」と胸を張った。
 ◇市区町村結果公表、08年度は35・6%

 文部科学省は「序列化や過度な競争をあおる」として、都道府県教委が市町村や学校別のテスト結果を公表しないよう求めているが、結果の公表で学力向上を図りたい一部の府県は独自に公開を始めている。

 秋田県が07、08年度分、大阪府が08年度分の市町村名を明示した市町村データをいずれも知事裁量で開示した。また鳥取県は08年12月、県教委が市町村別、学校別データを開示できるように情報公開条例を改正、09年度分から公開する方針。

 文科省は一方で、市区町村教委や各校がそれぞれの結果のみを公表することについては、地域住民や保護者への説明責任を果たすうえでも望ましいという立場だ。08年度の数値を何らかの形で公表した市区町村は35・6%だった。

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 ◇知事の圧力に反発、現場動かず−−大阪府教育委員・小河勝さん

 全国学力テスト(学テ)を巡る橋下・大阪府知事の言動には、教育委員の間からも疑問の声が上がっている。昨年10月、橋下知事の要請で府教育委員に着任した元中学校教諭の小河(おごう)勝氏(64)もその一人。「圧力をかけても現場は動かない」と話す。学テへの対応などについて小河氏に聞いた。【聞き手・田中博子】

 −−学テを巡る知事の一連の言動をどう見るか。

 知事による結果の公開や学校現場へのバッシングは、まったくマイナス。順位、順位と騒ぐのも、教育の本質としてどうかと思う。

 −−今年の学テの結果をどう思うか。

 今年初め、反復学習用の教材を開発したが、小学校で取り組めたのは実質2カ月。よく成果が出たと思う。中学校でも徹底してやれば成果は出るが、今年どこまで広がるか分からない。

 −−それはなぜか。

 知事らの高圧的な言い方に教師が反発し、現場を動かなくさせている。教育の方法は、現場の教師に任されている。合意形成することが大事だ。

 −−府教委は市町村別結果を公開する方針だが、どう思うか。

 昨年10月、知事が独断で市町村別平均正答率を開示した際には、「慎重に判断を」と助言した。公開することで傷つくのは、授業が分からない子供たち。その気持ちを考えると、やはり公開すべきではない。
【関連記事】
http://mainichi.jp/kansai/news/20090828ddn041100005000c.html

橋下徹氏を初めとして各地で今年の「全国学力テスト」の結果について一喜一憂しているようだが、今年は問題自体が少なくなったため、通時的比較それ自体が無意味。
また、『東京新聞』の記事;

学力テスト『次』見えず 自民保守票意識し『継続』 民主方法など見直し明言

2009年8月28日 朝刊


 衆院選終盤戦の二十七日に公表された全国学力テストの調査結果。毎年数十億円をかけた全員調査に批判の声が上がる中、本紙のアンケートで、自民は「現状維持」を掲げ、民主は「見直し」の立場を鮮明にした。政権交代が現実味を帯びる中、「やめろと言われても」と戸惑う文部科学省の担当者。来年のテストはどうなるのか。 

 「日教組などの活動力が強い地域は学力が低い相関関係が明らかになる」−。アンケートで調査継続を主張した自民は、理由の中でこう記述した。昨年九月、テストを考案した中山成彬・元文科相の「日教組の強い所は学力が低いのではと思った」との発言を踏まえたものだ。

 発言は物議を醸し、中山氏は就任間もなかった国土交通相引責辞任麻生太郎首相が「発言は甚だ不適切」と陳謝する騒ぎになったが、党として再び持ち出した。学力と日教組の組織率との関連を当時の同省事務次官は否定しているが、今回の回答で自民は、活動力の強さについて「組織率の高さではない」と断りを入れた。名指しされた日教組は「まだ言っているのか」とあきれ、保守票固めを狙ったものと見ている。

 日教組を支持団体に抱える民主党は、調査対象を一部の学校に絞る抽出調査への変更や、毎年実施の必要性を検討するなど、大幅な見直しを打ち出した。日教組の主張とほぼ同じだ。

 与党ながら公明は見直し派。学力向上策の成果の検証として調査は存続したいとしながら、実施頻度を減らして抽出に替える方針だ。社民、共産も、抽出調査に替え、浮いた予算を教員増などにあてたいとする。

 文科省はすでに、来年のテストについて「実施予定日は四月二十日(火曜日)」と告知している。だが政権交代となれば、見直しは避けられず、同省の官僚たちは「今は粛々と進めるしかない」と半ばあきらめ顔だ。担当者の一人は「抽出調査はデータに誤差が出る。実施しない地域には、テスト結果をもとに指導改善の提案をしても現実味がわかないのでは」と未練も見せた。
◆『役立った』中学生3割

 教員の65%がテストの中止を求め、「テストが役立った」と答えた中学生は35%どまり−。大学教員や弁護士らでつくる「教育改革市民フォーラム」の学力テストに関する調査で、こんな結果がまとまった。教員からは「税金の無駄」などテストに否定的な意見が目立ち、中学生は賛否が割れた。

 調査は今年三〜七月、アンケート方式で実施。小中学校の教員は、関東甲信越、東海、北陸の計五県の七百三十三人が回答した。「学力向上に役立たない」と答えた教員は63%。「好成績を取るよう教育委員会や校長から圧力を感じたか」の問いには、27%が「感じる」とした。

 自由記述の欄には「税金の無駄」「毎年行う価値を感じない」など批判が噴出。「教員を増やしたほうが学力向上につながる」「設備を充実させて」などの意見や、「政治家の勝手な思いで始まったのはおかしい」との指摘もあった。

 中学生への調査は北海道、関東甲信越、近畿の九校で行い、千三百二十六人が回答。「テスト結果をもとに授業で見直しをした」とする生徒は22%に過ぎなかった。自由記述では「小学校で習ったことをどのぐらい理解したか分かる」「これで学力が低いと言われるのは嫌」など賛否が割れた。

 調査した教育評論家の尾木直樹さんは「肯定派の子は他の設問を見ると、自己肯定感が強い。だから学力向上には対症療法策でなく、学ぶ喜びを引き出すことが必要だ」と指摘。「テストが教員の通信簿になっている。このままでは本来の目的からそれる。中止するべきだ」と話した。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2009082802000064.html

文部科学省の「担当者」は「抽出調査はデータに誤差が出る」といっているが、先ず参加する私立学校がさらに減って5割を割っている以上、その悉皆調査の夢は虚しいといえるだろう。また、「抽出調査はデータに誤差が出る」と言ってしまうこと自体、文部科学省統計学を分かっていないという印象を与えてしまう。たしかに、サンプリング調査である以上、「誤差」は出る。しかし、「誤差」は5%未満である。悉皆調査ならば、理論上標本誤差は出ないが、金銭的その他のコストはまるっきり違う。たかだか数%の誤差を消すために、多大なコストをかけて悉皆調査を行い、どのような認識的利得があるのか。先ず、それを説明する責任が出てくるだろう。再度言えば、私立学校が自由参加である限り、悉皆調査は現実として成立しない。