名誉棄損

『産経』の記事;


「カルト団体と関係?」HP書き込みで批判 男性に無罪 東京地裁
2008.2.29 15:33


ラーメン店チェーンを経営する企業がカルト団体と関係があるかのような書き込みをインターネットのホームページで掲載し、企業の名誉を傷つけたとして、名誉棄損罪に問われた会社員の橋爪研吾被告(36)の判決公判が29日、東京地裁で開かれた。波床昌則裁判長は、「名誉棄損には当たらない」として、罰金30万円の求刑に対し、無罪を言い渡した。一般市民のインターネットへの書き込みに対して、名誉棄損罪の基準を示した初めての判断とみられる。

 波床裁判長は、まず一般市民によるインターネット上の書き込みで名誉棄損罪が成立するか否かを検討。「ネット上では利用者が互いに反論できる上、情報の信頼性が低いため、従来のメディアに対する基準は当てはまらない」と指摘。「公益目的と認められる書き込みについて、真実でないと知りながら書き込んだ場合か、ネットの個人利用者で可能な限りの事実確認を行わずに書き込んだ場合に、名誉棄損罪が成立する」との新たな基準を示した。

 波床裁判長は、被告の書き込みが公益目的だったと認定。その上で、企業の登記簿や雑誌の記事などの情報収集を行っていたことなどを指摘し「ネットの個人利用者として可能な限りの事実確認を行った。名誉棄損には当たらない」と結論付けた。

 橋爪被告は平成14年10〜11月、自身が開設したホームページでラーメン店チェーン「ニンニクげんこつラーメン花月」の運営会社を「カルト団体の母体」などと掲載。真実ではなく、名誉を傷つけたとして起訴された。

 この事件をめぐる民事訴訟では男性の書き込みが名誉棄損に当たると判断され、賠償を命じた判決が確定している。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/080229/trl0802291533008-n1.htm

ここで示された「名誉棄損罪」成立の基準は取敢えず妥当なものだといえるだろう。ただ、この人以外にもネット上で同様の主張を行っている人はおり、私がブラウジングしたところ、その説得力は強いと感じた。だから、検察側の主張する「真実」についての判断を行っていないのはどうよという批判もあるのではないかと思う。勿論、「真実」かどうかという判断と「名誉棄損」かどうかという判断は独立したものである筈だが。
ところで、以前にも書いたが*1、「カルト」という言葉は認めることはできない。それはそう名指された相手にネガティヴなイメージを与えることはできるが、それ以外には何も意味せず、知的な理解に資するところが全くないからだ。それどころか、「カルト」という言葉を使った段階で、思考停止状態にどちらの側も陥ってしまい、不毛な感情的対立以外のものを生まない。内閉的・排他的(宗教)集団とか搾取目的(宗教)集団という言葉を使うべきだろうと思う。仏蘭西語起源のセクトという言葉の方が意味の限定があって好ましいと思うが、英語のsectや独逸語のsecteが意味するものとはかなり違うので注意が必要。
ところで、上の記事では「名誉棄損」が使われているが、毀損が正しい筈で、やはり産経の記者は学力が低いのかと思ったが、検索してみたら、他社も「棄損」を使っていた。因みに、『広辞苑』では「棄損」を認めていない。そもそも「毀損」の毀は壊すという意味だが、「棄損」の棄には棄てるという意味しかなく、壊すという意味はない。また、中国語の辞書を調べてみても、棄はqi、毀はhuiであり、相通する余地はない。