美国黒幇

リドリー・スコット監督の『アメリカン・ギャングスター*1を観る。凄いショットというのはあまりなかったが、リドリー・スコットだけあって、演出や構成に隙はない。空間としては、インナーシティ/郊外という対立がくっきりと描かれていたこと、また四季の移り変わりに配慮されていたことは述べておく。もしかしたら、警察にせよ犯罪組織にせよ、組織が前面に出ていないじゃないかという突っ込みはあるのかもしれない。
デンゼル・ワシントンというのは優等生というかエリートを演じるというイメージがあって、やくざ役というのは少し吃驚したのだが、この映画でもデンゼル・ワシントン(フランク・ルーカス)はやはり優等生でありエリートだった。ただ時代的な制約故に裏の優等生であったわけだが。勤勉で、親孝行で、家族思いで、敬虔な信仰を持っており、ビジネスには厳しい。また、外見からいっても、トラッドなスーツをきちんと着こなしているフランクと私生活が破綻して服装もラフなリッチー・ロバーツ(ラッセル・クロウ)を比べたら、どちらが悪玉なのかは判断に迷うだろう。
とくに前半は中国企業の幹部は必見。工程管理を厳しく行い、よい品質の商品を提供することがビジネスの基本であるということを理解するためにも。後半は寧ろ中国政府関係者必見か。〈反腐敗闘争〉はこうやるべしということで。リッチー・ロバーツが目論んでいたのは、たんに悪玉1人をぱくることではなく、それを契機に紐育市警の腐敗を一掃することだった。
ところで、「作中にちらりと登場するタイとベトナムの風景にたまらなく魅せられる」という*2。たしかに、1960年代のバンコクは魅力的だったが、ヴェトナムに関しては、米軍の前線基地以外に具体的な風景が出てきましたっけ?
See also http://d.hatena.ne.jp/FUKAMACHI/20080204

さて、ミケランジェロ・アントニオーニ監督*3のドキュメンタリー『中国』*4を観る。1972年5月から6月にかけての取材。3部構成で、北京、河南省林県、蘇州、南京、上海を取材。先ずは歴史的資料としての価値は確実にあるといえるだろう。1972年は国内的には�小平が復活するなど文革が一段落し、国際的には国連に復帰するといった相対的に開放的だった時期である。基本的にはガイドの誘導に従って〈当局が見せたいところを見る〉ということなのだろうけど、ところどころでガイドの制止を振り切って隠し撮りをするというところもある。映像として特に興味深かったのは、河南省の農村部で生西洋人を初めて見る住民たちの多義的な表情。映画は上海雑技団のステージを延々と映し続けて終わる。
ところで、四人組支配の時代になって、アントニオーニが中国から糾弾されたという記憶があるのだが、詳しいことは知らぬ。