地の塩

なんばさん*1のブックマークで知る;


 泉麻人「地の塩の箱」http://mytown.asahi.com/tokyo/news.php?k_id=13000140512190001


去年12月の『朝日新聞』東京版に載ったコラム。
「地の塩」という運動も、またその創始者の江口榛一という名前も知らないわけではない。また、あの黄色い箱も見たことはある。しかし、なんばさんのブックマークを契機にネットを彷徨ってみて、その江口さんが船橋市前原に住んでいたこと、最後の「地の塩の箱」が新京成前原駅に置かれているということを知った。
泉さんは「不勉強ながら僕はこの地の塩の箱……縮刷版の記事で初めて知った。血も涙もないニュースが続く師走、ホッと心があったまった」と書いている。しかし、北尾トロさん*2http://www.asahi-net.or.jp/~wh4k-bnb/dosa/2002/20020730.htmlによると、非常に壮絶なものがあったようだ。後者のテクストは、


無償の精神を基にしているのだが、この運動は江口一家を不幸のどん底に追い込む。箱が増えてくると、箱にお金が入っていないのは詐欺だという抗議が相次ぎ、江口は借金をしてお金を渡すことになる。一家は極貧状態となり、箸さえなく、木の枝で雑草を食べる生活を送る。世をはかなみ、まず娘が16歳で自殺する。次に妻が癌で倒れ、最後に江口自身が首つり自殺へ追い込まれた。
 私は地の塩の箱の顛末に、日本人の典型的な特性を見るのである。弱い者、弱点や欠点を持つものに対する嗜虐的な仕打ちである。地の塩の箱には、お金が入っていない場合があるという弱点があった。そこをつき、江口より金のある連中が江口から金をむしり取った。そればかりでなく、奪う金がなくなると、死をも強要する。詩人江口には、反抗したり、逃亡したりする心の余裕はなかった。大多数の主流派日本人にとっては、江口がこういう目に合うのは当然と考えるのだろう。だから江口から金をむしりとる行動にも出たり、そういうことをしなかった人も黙殺はした。けっして江口を守ろうとはしなかったのである。私にはどうしても、江口に非があるとは思えないのだ。つまり、日本人風の発想ができないということである。
と書き記されている。この「抗議」はあまりにひどいという感じはする。但し、江口さんの自死についてはもう少し複雑なものがあるようだ。http://homepage2.nifty.com/GOMAME/2000/3/000317.htmに引用されている真尾倍弘という人の「形」という詩は

原爆を浴びた原民喜さんは
常に無口な人だった
西荻窪の鉄路に消えた

頑丈で死ぬことなど考えられなかった詩人の江口榛一さんは、リウ
マチの痛さに耐えられないと書いて首をくくって死んだ

足摺岬』『絵本』の作家田宮虎彦さんはマンションから身を投げた

そして

というもの。また、http://yabusaka.moo.jp/jisatu79.htmには、

4月22日 「地と塩の箱」 江口榛一

 千葉県船橋市の団地内の自宅で、「血と塩の箱」創始者・江口榛一さん(本名・江口新一 65歳)が首吊り自殺。家族や自身の病気、娘の自殺、そして著作「幸福論ノート」のプライバシーの問題から親類から絶縁されるといったことなどにも心をいためていたという。

「何らかの事情で小額の金にお困りの方は、自由にこの中のお金をお使い下さい」
 著述家の江口さんがそう書かれた木箱を千葉県庁前に置いたのは、1956年9月だった。「地と塩の箱」と名づけられたその箱に入れられた金は返済の義務もなく、町にあふれた失業者の助けになった。敬虔なクリスチャンだった江口さんは知人の工員の生活の苦しさを聞いて、設置を決めたという。手元に少しの小銭しかなくても、箱に金を入れに行き、文字通り「一文なし」の状態になることもあったという。だが、そうした行為は「売れない物書きの売名行為」と言われることもあった。
 その後、賛同者があらわれ、「地の塩の箱の会」が結成される。70年代初めには全国各地に700個の箱が置かれ、アメリカやカナダにも広がった。だが資金集めが思うようにいかなかったり、世の中が豊かになっていったことからか、こうした運動は停滞していった。

とある*3

こういうアイディア自体は悪いものではないとは思う。インターネットに通じるところもある。また、この衰退もネット上の掲示板とかMLが衰退するメカニズムと共通のものがあったような気がする。
ところで、船橋市前原に住んでいる知名人といえば水野晴郎だった*4。江口さんが住んでいた団地って、水野晴郎の団地と同じか。

*1:http://d.hatena.ne.jp/rna/

*2:http://www.vinet.or.jp/~toro/genko/syowa3.html

*3:この頁は凄い!

*4:今も住んでいるかどうかは知らない。