爪切りから

昨日のことなのだが、或るカフェで近くに(といっても私から4~5米離れていたけれど)座っていた初老、というか、推定年齢は低くて50歳、高くて70歳くらいのおっさんが自分の爪を切り出して、その爪を切る音にいらついてしまった。あの爪を切る音って、そんなにも人をいらつかせるものなのか! これについては、自分でも少し吃驚したのだった。私も爪を切ることは好きで、常時深爪状態である。しかし、私にとって、爪を切ることは秘かな愉しみであって、カフェでかちかち音を立てながら行うというのは考えられない。そういうことは、公衆の面前でパンツを下ろしてオナニーをすることに近い。音にいらついたというのは勿論なのだけど、何故こういうことを公衆の面前でやるんだ? という不快感もあった。
ところで、爪を切るのが好きだということは、私の人格の、或る種の歪みを伴った形成
に関係しているのではないかと思っている。爪の先に埃などが溜まって黒くなっているのを見るのが不快だとも思うのだけど、どうもそれは合理化(言い訳)にすぎない。小学生の頃の記憶を辿ると、その頃は爪切りを知らず、歯で爪を噛み切っていた。私にとって、爪を切ることは(幼児ではよく見られる筈の)指をしゃぶることの延長だったようなのだった。また、子どもの頃、よくモノを噛んでいた。鉛筆や消しゴム、それから乾電池。これは歯でなく爪切りで爪を切るようになってからも続いていたと思う。噛むことへの嗜癖は大人になってからも已まなかったと思う。18歳から煙草を吸い始めたのだけど、煙草を吸うときにフィルターを強く噛む癖があって、フィルターが真っ二つに割れてしまうということも屡々だった。
10年以上前に喫煙も止めて、噛むことへの嗜癖は消えているのだが、爪切りへの少し強迫的な拘りだけは続いている。