大貫恵美子『日本人の病気観』から、米国の「医療人類学」への批判。この本の初版は1985年。
(前略)アメリカの医療人類学は、ある意味ではアメリカ人の近代医学に対する一般人の不満に呼応して成長したおもむきがある。すなわち、アメリカの人類学者は自らの医療制度のゆきづまりを解決する使命を意識的に、また時には無意識的に感じているわけだが、そうした実利的動機が、今までの医療人類学の視野を狭いものにし、理論的にも低迷状態をもたらしている。この傾向は、えてして漢方とかその他の非西洋的医療制度をロマンティックに受けとめ、アメリカの東洋崇拝のイメージにあてはまるように描写したり、その反面、「実効性」という近代医学の根底の考え方を他の医療制度の判断基準にし、単純な医療実証主義に陥る結果を招いている。(略)ルイス(一九八一)*1が言うように、人類学者はその真摯な意図に反し、巫女、魔術師のように他界に飛んでゆき、魔法をさがしてくるといった役割を演じるわけである。この「自らの問題解決」を出発点とした研究の最大の欠点は、他の文化(医療制度も含め)を理解するという人類学の大きな課題にこたえず、自らに有利な点だけを抽出したものに終わってしまうという恐れを多分に含むということである。(pp.7-8)
*1:Lewis,I. M. “What is a shaman?” Folk 23, pp.25-35, 1981.