五反田 by 横溝

横溝正史『雪割草』*1から。主人公「有爲子」は新宿から(多分山手線で)五反田に向かう。


恐ろしい勢いで膨張していく東京市の、文化というより、文化の滓が、しだいに武蔵野の風致を侵食していって、そのあたり、どこか土臭い田舎娘の、へたな化粧を見るような感じがあるという。
そこが五反田*2だった。
どんどん殖えていく殺風景な工場と、それを取りまく安普請の小住宅、職工さん相手の花柳界や、怪しげな紅提灯の飲み屋が雑然と散らばっている、そういう五反田の片隅に、恩田と粗末な表札のあがっている家がある。
そこが有爲子の上京後の仮りの宿だった。(p.80)