「懐かしい人々」

渡辺保*1「著名人から得た教え 今も生きる」『毎日新聞』2022年2月12日


関容子『銀座で逢ったひと』の書評。
最初と最後。


懐かしい人々に出会った。
銀座は人に会う街、分かれる街。著者がその街角で会った人たち。その人たちが思い出を語って消えて行く。そのさま、さながら能を見る如くである。
全編六章。文学者の章には吉行淳之介丸谷才一ら、歌舞伎役者の章では十七代目勘三郎ほか、女優の章には沢村貞子ら、俳優の章は平幹二朗ら、落語家・画家・音楽家の章には桂米朝ら、最後に特別編として著者の兄、そのほとんどが今は亡き人々。むろん読者にとっては未知の人もいるだろう。しかし知るも知らぬも、この本を読めば人物たちまち眼前に現れて、百年の知己の如く懐かしい人になる。著者の話術の妙である。

著者は、はじめは雑誌やラジオの談話の構成者になり、さらに企画者、インタビュアー、司会者になって様々な有名人と交流を持つようになる。だれからも愛され、一方多くのことを学んだ。ことに丸谷才一には文章の書き方、文筆家の生き方を教えられて成長した。そうして彼女は一流の独特のエッセイストになった。
銀座はその舞台、そこに浮かぶのは懐かしい人々であると同時に著者の「女の一生」でもあった。一人一人の南伸坊のイラストがよく風貌を摑まえて傑作。