興味深いのは根津嘉澄氏が三代目根津嘉一郎にならなかったことですね。そういえば、東武鉄道とも縁が深い、群馬県館林の正田醤油*1では、1973年に歿した六代目正田文右衛門以降、「正田文右衛門」は出ていません。「二代目根津嘉一郎」の襲名が1940年、「六代目正田文右衛門」の襲名は1935年*2。「襲名」というのは戦後の新民法下において急速に衰退したわけですが、それを考えると、21世紀、平成後期に至っても「襲名」制度を維持している(『女系家族』の)「矢島家」は凄いといえます。
bluenote1969またしても鉄道ネタのコメントで大変恐縮ですが、日本の鉄道業界で襲名と言いますと、やはり「根津嘉一郎」が有名です。初代根津嘉一郎が1905年に東武鉄道の社長に就任して、1940年に没するまでその座にあり、初代の没後に長男・藤太郎が二代目根津嘉一郎を襲名し、1941年に同社の社長に就任してから、実に約53年間、1994年6月まで社長の座にありました。これは、任天堂の山内傅を約半年間上回り、東証上場企業の社長としては、史上最長の在任期間です。さらにその後、1999年6月からは、二代目嘉一郎の次男である根津嘉澄氏が、2021年12月現在に至るまで社長の座にあり、1905年からの116年間のうち、実に111年間、東武鉄道の社長を根津家三代で務めていることになります。ちなみに、二代目嘉一郎の長男である公一氏は、1999年から東武百貨店の社長を務めています。鉄道業界には、西武の堤家や東急の五島家等、世襲が多いのはご存知の通りですが、襲名となりますと、この「根津嘉一郎」ぐらいしか思い浮かびません。