人口学的問題

時事通信の記事;


45歳定年制導入を コロナ後の変革で―サントリー新浪氏
2021年09月09日21時13分


 サントリーホールディングス新浪剛史社長*1は9日、経済同友会の夏季セミナーにオンラインで出席し、ウィズコロナの時代に必要な経済社会変革について「45歳定年制を敷いて会社に頼らない姿勢が必要だ」と述べた。新浪氏は政府の経済財政諮問会議(議長・菅義偉首相)の民間議員を務めるなど論客として知られる。

 政府は、社会保障の支え手拡大の観点から、企業に定年の引き上げなどを求めている。一方、新浪氏は社会経済を活性化し新たな成長につなげるには、従来型の雇用モデルから脱却した活発な人材流動が必要との考えを示した。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021090901120

さて、山口浩*2「45歳定年を実現させたいなら」*3によれば、「45歳定年制」云々という財界サイドにおける議論や提言というのは取り立てて新しいことではない。
山口氏は今回の新浪発言を巡る人口学的(ライフ・サイクル/ライフ・ステージ論的)問題を指摘している;

また、そもそも45歳前後は「節目」というより、雇用の継続と安定を最も必要とする年代であるともいえる。国立社会保障・人口問題研究所の第15回「出生動向基本調査」(2015年)によると、夫妻の平均初婚年齢は夫が30.7歳、妻が29.1歳だ。仮にすぐ子どもが生まれたとしても、45歳定年だと定年時に子どもは中学生かそれ以下となる。これから最も教育費がかかる時期を迎える年齢だ。このあたりで収入が不安定になるとすると、子どもを持とう、結婚しようという人は現在よりさらに少なくなるだろう。とても現実的とは思えない。

各所で湧き上がる批判の中でもよくみるのは「経営者ならば自社でまず成功させてモデルを示してみせよ」という主張だ。なぜ自社でやらずに他社に訴えるかというと、自社だけで実施すれば自社からよい人材が逃げ出し、よい人材の採用もできなくなるとわかっているからで、まあいってみれば無理筋な要求だが、そういわれても当然ではある。

ただ新浪氏は単に企業経営者であるというだけではなく、政府の経済財政諮問会議の民間議員も務めている。いわば国の舵取りの方針策定に関与する立場であるわけで、そうであるならば一企業を超えた活躍を期待しなければなるまい。

もし日本経済の「新たな成長」のために45歳定年制を普及させるべきと主張するなら、45歳で定年を迎えた労働者、中でも自らのキャリアをどんどん切り開いていけるごく一部の優秀な人材「でないふつうの人々」が、定年以降どのように生計を立て、子どもを育て教育を施し、もって経済を支えていくのかという道筋を、具体的な社会のしくみを整備することで実際にみせてもらいたい。

今の日本企業はいったん雇用した労働者をそう簡単には解雇できないが、それ以上に国は国民を追い出すことができない。優秀な人は総じて優秀な人しか世の中にいないかのごとく考えがちだが、実際の世の中はそうではないのだ。45歳定年制を実現させたいならまず、「凡人」が凡人なりに45歳で新たな職に挑戦し、きちんと生きていける世の中を実現してもらいたい。45歳の「一休」たちに「屏風の虎」を捕まえてほしければまず、屏風から虎を追い出してみせよ、という話だ。