理論的要請は

鈴木洋一郎「宇宙は見えないものでできている」『本』(講談社)533、pp.14-15、2020


ダークマター」(暗黒物質*1について。


宇宙には、我々が知っている物質の他に、その5~6倍の、ダークマターと呼ばれる正体不明の物質があるとされている。質量を持つなど、わかっていることはあるのだが、その姿を分子や原子などのようには光で見ることはできず、実態がつかめていないのである。そして、我々の周りに多く存在するにもかかわらず、日常生活で、ダークマターを見たとか、ダークマターにぶつかったという話は聞かない。
それでも、ダークマターの影は、そこら中にある。銀河の中にも銀河団の中にも、そして、我々の周りにも目に見えないダークマターが大量に飛び交っている。実は、ほとんどぶつからないで、我々を通りぬけているのだ。透明人間のように壁をもすり抜けてゆき、我々は、簡単に感じることも見ることもできない。(後略)(p.14)

ダークマターは、宇宙の発展に重要な役割を果たしている。実際、宇宙は138憶年前に起こったとされるビッグバン以後、膨張する中で、万有引力(重力)により物質が集まり、星ができ、銀河ができた。実は、大量にあるダークマターの重力が、物質が集まる手助けをした。というより、むしろダークマターが宇宙の構造を作る主役を演じていたのだ。そして、人類が誕生したのも、そう、私達が生きているのも、元をたどればダークマターのおかげである。(後略)(ibid.)
見ることはおろか感覚することもできないのに「存在する」。何故か? それは理論的要請の故だろう。「ダークマター」という概念を使うことによって、或る感覚可能な現象をより簡単且つクリアに説明することができる。或いは、或る現象は「ダークマター」の存在を想定しないことには整合的に説明することが不可能である。等々。まあ、そうした理論的要請については、『見えない宇宙の正体』(ブルーバックス)を参照して下さいということなのだろうか。
ところで、鈴木先生は、「物理学では、理論は必ず観測(や実験)で実証されなければならない」と書いている(p.15)。話は逆だろう。「理論」なくして「観測」や「実験」はあり得ない。