「距離感」の問題

島本理生*1「写真が呼び起こす「あの日」」『毎日新聞』2021年2月21日


曰く、


写真は面白い。目の前にある風景は一つだという思い込みが、写真家の眼差しを通すことによって、いつの瞬間も誰の中にも全く同じ風景などないことを再発見するからだろうか。
私自身、十年前に写真家を目指す地方出身の女の子の小説を書いたこともあって、一時期はよく恵比寿の写真美術館*2に通い、ピントからなにから手動のフィルムカメラを使って勉強もした。一度プロのカメラマンの友人に、自分の写真が下手でもないけれど上手くもない理由について相談したら、この写真で一番表現したいものはなにかt、と問い返されて、それを絞らずに全てを同じ距離感で撮っていたことに気付いた。結局上達はしなかったが、今でも見るのは好きだ。