「電子書籍の欠点」(佐和隆光)

佐和隆光「デジタル時代における読者家たちの苦悩」『経』(ダイヤモンド社)223、pp.24-27、2020 *1


佐和氏によると、「電子書籍のメリットの一つは、簡単な操作で文章にマーカーを自在につけることができる点にある」。「また、用語の検索もあっという間だ」(p.26)。


私が経験した電子書籍の欠点を紹介しよう。数年前、ある興味深い専門書の日本語訳を電子書籍で読んだ。ある月刊誌に連載中の小論のテーマに、この専門書の著者の主張を批判的に論じることとし、スマホを座右に置いて、筆を進めようとしたのだが*2、いつものようにスラスラと筆は運ばない。やむにやまれずアマゾンに注文して紙の本を手に入れ、スマホの代わりに座右に置くことにした。500ページ近い紙の本のページを繰ってみると、本の全貌が見えてくるような気がする。電子書籍に黄色いマーカーを付けたパラグラフを紙の本で改めて読み直すと、著者が言わんとすることが膨らみをもって伝わってくる。
以上のような経験を通じて、私の得た教訓は次の通りである。大部の本の電子版を読んで得られるのは、大著の内容を切り刻んだピースミール(断片的)な知識にとどまりがちだ。言い換えれば、大著を通じて著者が伝えたかった全体知のようなものは、紙の本を読まない限り、けっして汲み取れないのではないか。(ibid.)