「負の循環」(宮本太郎)

宮本太郎*1「利便追求が生む負の循環」『毎日新聞』2019年6月12日


「商品はいつでも選び放題だが、人生の選択肢は驚くほど限らている」ことへの「違和感」。


この違和感の根幹には、消費の利便性が生活全般の自由を高めるのではなく、むしろその犠牲のもとに成立し、不自由さを補完してしまっている現実がある。より便利で安い消費のために、多くの人が限界に近い働き方をしている。
残業で帰宅時間が変わるから、宅配便を受け取れなくなる。低所得の非正規雇用が増えるから、家族を持つことも難しくなる。それでも宅配便は再配達され、コンビニエンスストアに行けば、いつでも安くておいしい単身者向けの総菜を買える。宅配便の再配達やコンビニの24時間営業など、消費の利便性を追求することが新たな不自由や困難を生み出し、さらに増やしてしまうという「負の循環」が起きているのである。
消費の自由は、米IT大手のGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・コム)などが提供する情報インフラと、至れり尽くせりの日本型サービス経済によって担保されている。だが、GAFAなどの「プラットフォーマー」(ビジネス基盤を構築。提供する事業者)が契約先の事業者を支配し、ウェブサイトの閲覧履歴などに基づく「ターゲット広告」で消費者の選好をコントロールしている面もある。