「国家」と「権力」(山口昌男)

山口昌男*1「権力のコスモロジー」(in 『語りの宇宙』、pp.201-230)から。
「国家の問題は権力の問題の一部にすぎない」ということ。


やはり権力というのは中心とともに周縁をつくりだす装置でしょう。(略)だから、普通はネガティヴにしか権力のことをいわないけれども、権力に対する方向は二つに分けることができると思うんです。中心としての権力に向かう権力志向もあるし、それと反対の極に向かう権力志向もあると思うんです。そういうように権力というものは非常に掴みどころのないものである。だから権力は人をとらえて離さないんじゃないか。普通、権力というときに、「権力の側にいる」とか「権力の側に立つ」というけれども、権力というのはある意味では無限の自己肯定みたいなものでしょう。結局は自分を絶対化することによって時間および空間を支配し、最後には時間、空間の可視的世界である物質的世界を支配する、そういう意志でしょう。だから権力の問題を考えていくと、確かにニーチェの問題に立ち返る必要があるのかもしれない。というのは、ニーチェの論理もまたこの二つの方向にその射程をもっていたように思えるからです。悲劇を含めて、自己破壊の衝動とかいろいろなかたちで、ニーチェは権力の問題を出したと思うわけです。ところで、王権というものが再び人々の関心を呼び起こしつつある理由というのは、それが権力の両極を包み込んでいるからだと思うのです。中心化の極と非中心化の極をひとつの射程に収めると、そこにはだいたい文化が持っているコスモスが現われてくるわけです。つまり、王権は国家と重なることによってさまざまな機能を果たすけれども、なによりもまずそのような機能を超えて彼方から立ち現われてくるコスモスを呼び起こす装置でもあるということです。王権というのはコスモロジーの絵解きであり、絵解きのための装置というところがある。だから王権は絵解きのための装置を全うするために、そのあらゆる側面に演劇的表現を与える側面を持っているわけです。王権というものをこのような広がりのもとに捉えることができなかったというところに、十九世紀から二十世紀にかけての社会科学の限界があるように思えるんですね。つまり、モデルが貧困だったわけです。それが、コスモロジカルな射程で王権を捉えたうえで、政治と人間のアイデンティティの問題を示すような理論が出てこなかったことのりゆうじゃないかと思います。だからたとえば政治学というのはせいぜい政府学みたいなものになってしまう。国家論のつまらなさというのも、基本的に、そいう政府機関なりそれにつらなるものを特定の集団が独占しているとかいないとかのレベルにトドマッテいたところにあるんじゃいないかと思うんです。(pp.204^206)

*1:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070430/1177912932 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070523/1179897577 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080116/1200506920 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080825/1219599350 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090922/1253594813 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091208/1260270282 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100116/1263614862 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100130/1264834811 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100206/1265435465 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101228/1293511035 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110204/1296794711 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110208/1297180408 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110219/1298093110 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110222/1298351689 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110226/1298700874 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110609/1307650973 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110813/1313253565 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110924/1316802079 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120316/1331898804 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120926/1348620790 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130311/1362963510 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130313/1363141131 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130321/1363880948 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130403/1365006904 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20150104/1420390585 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20150528/1432792757 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160226/1456453149 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160609/1465490540 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20161211/1481482837 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180312/1520831453 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180528/1527516591 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180711/1531287520