変な「サブカル」

AMネットワーク「オウムの本質は「カルト」でなく「サブカル」であり、それは今この国を覆っている」http://arrow1953.hatenablog.com/entry/2018/07/06/173615


麻原彰晃処刑*1を承けて書かれたエントリー。


後に教団と信者家族を巡るトラブル対応に当たっていた坂本弁護士家族拉致事件ほか松本サリン事件、東京23区を張り巡らせている地下鉄の車両でサリンをまき、重軽傷などを含め6000人の犠牲者を出したテロ「地下鉄サリン事件」を引き起こしたことで知られています。この犯罪の規模やこの団体が宗教団体だったことから世間にはオウム=「カルト」「テロ集団」という認識が広がっていったと思いますけどもそれは違う。オウムの本質は記事のタイトルでも述べた通り、あくまでも「サブカルチャー」「サブカル」であると、僕は考えています。(後略)
「カルト」と「テロ集団」と「サブカル」というのは両立可能であるとは思うのだけれど、それはともかくとして、その根拠として援用されるのは大塚英志*2の『戦後民主主義リハビリテーション』という本(これは読んでいない)。それによると、「サブカルチャー化」というのは「その事象が本来、出目として帰属していた大文字の歴史から切り離され、消費社会の中で情報として集積され、引用される事態」である。何故これを「サブカルチャー化」というのかというのは難しいのだが、その意味はよくわかる。まあ、例えばネット検索の上位で引っかかった情報がその情報のそもそも生成した歴史的文脈とかが問われることなく、適当に切り貼りされつつ流通する事態といえば、もっとわかりやすいだろうか、それともわかりにくいだろうか。〈Google化〉と呼び変えてもいいかもしれないこの事態は、以前東浩紀氏が『動物化するポストモダン*3で「動物化」とパラレルな事態として示した「データベース化」とも類似した概念といってよいだろうか。
動物化するポストモダン オタクから見た日本社会 (講談社現代新書)

動物化するポストモダン オタクから見た日本社会 (講談社現代新書)


以前このブログで、僕は日本にもはや土地や風土、生活習慣などに根差した「文化」などはとっくに存在しておらず、その代わりにあるのは「国歌」や「日の丸」、「外国人向けのガイドブックにありそうな伝統文化など」、人々のリアリズムから分断された「シンボリックなサブカルチャーとしての概念」でしかないと述べました。 僕がこの本を手に取ってそろそろ20年。現在のこの国について考えた時に、大塚のオウム批評は20年近くを経て、この国に広く薄く広まっていったんだなとため息をつきたくなるのと同時に、この前述したオウム的な空気が、この国でいよいよ先鋭化してきたことについて危機感を感じています。

 現実に対して空虚さを抱えた人々を強く引き付けたオウムの教理が前述されたオカルト的な価値観だけでなく、アニメの設定や各宗教の価値観などを切り貼りして編集を行い、独自の世界を構築していきながらその世界を守るため世間と断絶を図り、結果敵に先鋭化の道を突き進んでいく。この光景は同じく現実社会に対する閉塞感に目を背けるためyoutubeで周辺国や現政権の批判者を「反日」などと罵るデマや不正確な情報を切り貼りして作った映像を観て、敵意むき出しのネトウヨ共が増殖したり、英国BBCのドキュメントで人権意識にひどく欠けたコメントを得意げに吐いて悦に浸る自民党議員を生み出したりしているこの国*4とどこが違うというのか。その風潮を良しとせずに批判する人を「サヨク」「パヨク」などと嘲り、議論することもせず自説をつらつら述べ、それに答えるまえに「はい論破!」といって粋がるネトウヨや国会の質問に誠実に答えずニヤニヤ笑うだけのバカなこの国の首相と、同じく教団の批判に対してディベートには長けていたが、オウムの本質には全く触れることのなかった嘗てのオウム広告塔「上祐史浩」と何が異なるのか。この両者は僕にいわせりゃまったく同じであり、だからこそこの国は本格的にオウム化しているといわざるを得ません。

 そしてオウムもこの国を覆うサブカルなオウム的空気も突き詰めていくと、その本質は「正しい認識を持っている自分たち=特権を持つ者」であり、その特権の所有者がこの国を動かすことで国全体を強大にさせることを望んでいるというファッショな性質であるということは大声で言っておきます。だから今、大事なのは「日本はひとつ」的な幻想に抗いまず自分の足で立つこと。とあるバンドの「HINOMARU」に涙したり、youtubeの出所さえも分からないプロパガンダ映像に高揚することでもなく、現在の生活というリアリズムを大事にして、そこから自分を語るための言葉を探す努力を怠らないことです。

まあ、ここに書かれたことはだいたい首肯できる。ただ、「広告塔」という言葉はもう一度国語辞典を見た方がいいよ。


サブカルチャーサブカルとは何かをバカにもわかりやすく語る」http://arrow1953.hatenablog.com/entry/2017/12/07/112645


さて、この人が読者を「バカ」という資格があるのかどうかはかなり怪しいといえる。大塚英志氏のいう「サブカルチャー化」に自分自身がかなりずぶずぶに感染しているのでは?
サブカルチャー」の定義問題に関して、『広辞林』とWikipedia(日本語版)が参照されている*5。どちらの定義もちょっと混乱しているように思え、どうせ見るなら英語版のWikipedia*6或いは『オックスフォード英語辞典』*7を見てねといいたいのけど、それは措いておいて、『広辞林』や日本語版のWikipediaから以下のようなことを導き出すのは極度に困難だろうと思う;


「社会の中心となる支配的な文化」とは日常生活に根付いている振る舞い=風習や習慣だと言い換えられます。僕らの生活の中で具体的に言うと「日本語」「米食」などが日本独自の風習として挙げることができるのではないかと僕は考えます。そしてその支配的な文化の対局にあるものこそがサブカルチャーサブカルであると定義します。

 文化の対義語である「サブカルチャー」とは「社会生活に根付いていない風習や習慣」を意味するものであり、エヴァガンダムに代表されるアニメやゲーム、マンガなどは本来、僕らの現実生活から遠く離れたクリエーターの荒唐無稽な想像力により生み出された単なる「物語」でしかありません。(後略)

先ず、「サブカルチャー」であれ何であれ、「社会生活に根付いていない」文化というのはあり得ない。文化というのは生活の仕方(ライフ・スタイル)という意味なので。私が参照を勧告した英語版のWikipediaや『オックスフォード英語辞典』に従えば、「サブカルチャー」というのは言語に喩えれば標準語(共通語)に対する方言のようなものなので、私たちの「社会生活」にはより身近な筈なのだ。
そもそもサブカルチャーというのは集合論的に(全体集合に対する部分集合ということで)理解すべきだと思うのだけど、仮に『広辞林』や日本語版のWikipediaのように、「支配的」な文化とそれ以外とということから出発したとしても、上のような展開は権力闘争という血腥さを隠蔽するという反動的な錯誤を犯しているということはできるだろう。これは所謂〈中心vs.周縁〉という問題系に関係しているかも知れない。〈中心vs.周縁〉を巡っては、山口昌男*8の『文化と両義性』や『知の祝祭』を参照していただくとして、支配的文化(中心)と「サブカルチャー」(周縁)との関係は、言ってしまえば、与党と野党のようなもので、権力闘争の効果でしかない。日本語で言えば、東京方言が標準語(中心)で大阪方言が「サブカルチャー」(周縁)でしないというのも、歴史的な偶然にすぎない。大阪が日本の首都になって、大阪弁が全世界の日本語学校で標準日本語として教えられる可能性がなかったとは言えない。
文化と両義性〈哲学叢書〉

文化と両義性〈哲学叢書〉

知の祝祭 (1979年)

知の祝祭 (1979年)

「歌舞伎」や「落語」や「相撲」とかについて、「昔の日本人の生活と密接につながりを持ち、当たり前のものとして存在していましたが」というけれど、「歌舞伎」にしても「落語」にしても「相撲」にしても、そもそも江戸の地域文化すなわち「サブカルチャー」にすぎず、田舎者にとっては〈異文化〉だったわけだ。これが〈日本の文化〉になったのは、全国区的なマス・メディアが〈日本の文化〉として伝え、学校教育が〈日本の文化〉として教えているからにほかならない。ほかの文化が「サブカルチャー」に留まっているとしたら、それはマス・メディアや学校教育が特殊なものとして位置付けているからでもあるだろう。まあ、支配的文化vs.「サブカルチャー」という枠組そのものが反動的なものとして解体されなければならない。〈文化〉というのは多様なサブカルチャーの集積として認識され、その上で重複(overlapping)が模索されるということになるのだろう。これが、所謂ノーマライゼーション*9とか(最近の流行りでは)ダイヴァーシティとかが文化という準位で意味することなのだろう。
ところで、四文字化された「サブカル」というのは、(少なくとも私にとっては)1980年代以降の「オタク」というサブカルチャーと対立させられた、ひとつのサブカルチャーということになる(Cf. 『ユリイカ』臨時増刊「総特集=オタクvsサブカル! 1991→2005ポップカルチャー全史」*10)。

*1:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180706/1530842425 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180706/1530848597 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180707/1530924896

*2:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061002/1159772282 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070430/1177955798 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090831/1251730620 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100514/1273771725 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100610/1276201202 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100610/1276201202 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101204/1291439855 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110206/1297010958 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110713/1310486787 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110718/1310962569 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130725/1374722806 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20141022/1413906399 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180510/1525956186

*3:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090607/1244348445 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090608/1244479972 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090911/1252642373 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100315/1268585636 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110831/1314807916

*4:See 橋本直子「BBCドキュメンタリー「日本の秘められた恥」で世界に晒された日本社会の構造的な恥」https://www.huffingtonpost.jp/naoko-hashimoto/bbc-documentary_a_23472253/ 大村健一、中村かさね「性被害 BBCの詩織さん番組で「女として落ち度」言及 杉田水脈議員に批判」https://mainichi.jp/articles/20180705/mog/00m/040/006000c

*5:http://www.weblio.jp/content/%E3%82%B5%E3%83%96%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%96%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC

*6:https://en.wikipedia.org/wiki/Subculture

*7:http://oxforddictionaries.com/us/definition/american_english/subculture

*8:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070430/1177912932 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070523/1179897577 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080116/1200506920 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080825/1219599350 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090922/1253594813 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091208/1260270282 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100116/1263614862 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100130/1264834811 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100206/1265435465 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101228/1293511035 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110204/1296794711 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110208/1297180408 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110219/1298093110 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110222/1298351689 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110226/1298700874 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110609/1307650973 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110813/1313253565 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110924/1316802079 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120316/1331898804 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120926/1348620790 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130311/1362963510 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130313/1363141131 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130321/1363880948 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130403/1365006904 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20150104/1420390585 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20150528/1432792757 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160226/1456453149 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160609/1465490540 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20161211/1481482837 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180312/1520831453 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180528/1527516591

*9:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060320/1142869987 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20071029/1193632186 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20071102/1193971451 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090808/1249752436

*10:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20050811 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090723/1248369714 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130129/1359438129