「容疑者」の登場

承前*1

足立大「容疑者でなく元院長、加害者の呼び方決めた理由」https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190510-00050294-yom-soci


東池袋で起こった自動車暴走事故の加害者の呼び方を巡って。読売新聞社会部デスクによる説明。
ところで、この文によると、新聞に「容疑者」という言葉が登場したのは`1989年のこと。


ちょっと回り道をしますが、読売新聞に「容疑者」が登場したのは30年前です。それまでは逮捕された人(法律用語では被疑者といいます)は呼び捨て、刑事裁判中の人には「被告」を付けていました。

 1989年12月1日の読売新聞は<呼び捨てをやめます>と宣言し、容疑者を使い始めました。<刑事裁判の被告人に「被告」を付けながら、捜査中の被疑者を呼び捨てにすることには矛盾もある>。つまり、容疑者の使用は、(1)「逮捕された人=犯罪者」という印象を与えるのを防いで人権を尊重すること、(2)加害者の刑事手続き上の立場をはっきりさせること、を出発点としました。

 辞書では、容疑者は「犯罪の容疑を持たれている人」(広辞苑)と広く定義しています。ただ、新聞が容疑者と呼ぶのは、原則として、逮捕や指名手配、書類送検をされる等、刑事責任を問われた人の法的な立場をはっきりさせる目的があります。そして、容疑者と名指しするからには、容疑の内容をきちんと読者に提示する責任が生じます。

他社も同じ頃だったのだろうか。
何故、「元院長」なのか;

では、なぜ「元院長」という肩書呼称にしたのか?

 こちらも多かったご指摘です。「加害者を擁護する記事だ」「肩書で罪が軽くなるのか」……。SNSで「元官僚という『上級国民』だから逮捕されない」という誤った言説が拡散されたからか、国家権力への不信によるものかはわかりませんが、思わぬ反響だったので驚きました。加害者をひいきする心づもりは一切なかったからです。

 「容疑者」を使わない場合、事故によっては「飯塚さん」という敬称を用いることはあり得ます。ただ、横断歩道を渡っていた母子を含む12人が死傷した事故で、加害者に敬称を付けるのは心理的な抵抗があります。敬意を表す「飯塚氏」も同様です。

 そして、元院長は、過去のこととはいえ、元通産省幹部という社会的立場の重い公職に就いていた人物です。

 他紙を見ます。最初は「飯塚さん」と表記した朝日新聞毎日新聞東京新聞と、「男性」「男」と匿名だった日本経済新聞産経新聞は、すべて「元院長」に切り替えました。

 読売新聞社会部は、呼称が変化した理由を5紙に取材しました。朝日、毎日、東京とも、飯塚元院長の過去の職歴を確認できた時点で「さん」から肩書に切り替えたとの回答がありました(日経、産経は「総合判断した」との回答にとどまりました)。

 呼称は報道機関が独自に判断します。それでも、加害者に敬称を使うのは避けたかったという意思がくみ取れます。