中二病?

福岡伸一*1「究極のがん治療法は”諭す”こと」『AERA』2018年10月29日、pp.68-69


癌というのは要するに細胞の中二への退行ということ?


(前略)受精卵から出発し、2細胞、4細胞、8細胞……と分裂が進む初期段階では、まだほとんどの細胞はあらゆる細胞になりうる可能性を保持している。いわゆる万能細胞と呼ばれるものだ。ちなみに、ES細胞やiPS細胞も未分化状態の万能細胞である(ただし、あらゆるものになれるわけではないので、正確にいえば、多能性幹細胞。真の万能細胞は受精卵だけ)。
未分化細胞はやがて分化細胞に変化していく。一方、がん細胞は、分化して専門化した細胞が、昔の未分化状態に逆戻りしてしまった状態といえる。いったんは分化しているので、「未」分化ではなく、「脱」分化細胞と呼んでもよい。未分化もしくは脱分化状態の細胞は、まだ自分が何者になるのかを模索している段階であり、多細胞化の最中にある。だからさかんに細胞分裂を行う。がん細胞がどんどん増殖したり、散らばったりするのは、細胞が脱分化状態にあるためだ。ふつうの細胞は、未分化状態から分化状態(専門化)に入ると、落ち着いて自分の仕事に専念するようになり、無制限に増殖することはなくなる。
それゆえ、もし究極のがん治療法があるとすれば、脱分化して暴れている元・分化細胞(たとえば、肝臓がん細胞)に、「君は本来は肝臓の一員だっただろ。それをよーく思い出しなさい」と諭すことができたときだ。そして、それを聞いた肝臓がん細胞が「僕は肝臓の細胞だったんだ!」と思い出して、元のさやに収まればがんは治る。しかし、このようながん治療法はいまのところ発見されていない。