守られる主犯

承前*1

先月末の『朝日新聞』の記事;


まつりさん上司の電通元部長は「不起訴相当」 検察審
2018年7月27日16時38分


 広告大手・電通の違法残業事件で、東京第一検察審査会は27日、過労自殺した新入社員の高橋まつりさん(当時24)の上司だった元部長=退社=に対する東京地検の不起訴処分(起訴猶予)について、「不起訴相当」とする議決を公表した。議決は12日付。議決書は「会社という組織の中で、個人ができる対策は限られていた」などと指摘した。

 一方で、議決書は「入社1年目で自殺した無念さ、尊い命が奪われた親族の心情は察するに余りある」とも言及している。関係者によると、検審は担当検事から直接説明を受けるなどして、慎重に検討を重ねた。

 元部長は、高橋さんに違法残業をさせたとして労働基準法違反容疑で2016年12月に書類送検され、東京地検が17年7月に不起訴とした。一方、法人の電通に対しては、検察から略式起訴を受けた東京簡裁が異例の正式裁判を開くことを決め、17年10月に罰金50万円の有罪判決を言い渡し、刑が確定している。

 高橋さんの母、幸美さんは判決後の同12月に検察審査会に申し立てた。その後、今年1月の会見で、元上司が高橋さんに「君の残業時間は無駄だ」「女子力がない」などと述べたとされるのを批判。「悪質な上司の行為を罰することは労基法順守、職場改善、過労死防止のために重要だ」と主張していた。
https://www.asahi.com/articles/ASL7W52WCL7WUTIL02H.html

検察審査会」で議論されていたのとは別の次元の問題で、この「上司だった元部長」こそが高橋まつりさんを「自殺」へと追いやった主犯だったと思う。換言すると、高橋さんは「違法残業」によって「自殺」したのではなく、この「元部長」のパワハラによって、自らの意味的世界を打ち崩されたことによって「自殺」に追い込まれたといえる。こいつは、日常言語における〈人殺し〉ではあるのだけど、法律的な意味における〈殺人犯〉にするのは難しいだろうなと思っていた。
この「元部長」に対して如何ほどの刑事的制裁が妥当なのかはわからない。或いは、パワハラによって「自殺」を誘発するということが刑事裁判の対象となりうるのかどうかということも(実は)私にはわからない。しかし、少なくとも、自らの部下を「自殺」に追い込んでしまった責任に関して、私的・公的に説明する責任はあるだろうとは言えるだろう。しかし、その説明責任は果たされていない。さらに不思議なことに、こいつに説明責任を果たさせようとする圧力もないように思う。管見の限りでは、「元部長」にインタヴューして問い詰めようとしたメディアはなかった。法人としての「電通」は「罰金50万円」が確定しているが、「元部長」は会社を弾除けの盾にしつつ、自らは匿名性の闇に逃げ果せてしまっている。「起訴」というのは「元部長」を匿名性の闇から公共性の明るみへと引き摺り出すチャンスであったわけだが、「検察審査会」はその可能性を閉ざしてしまった。