或る「アルバイト」

鹿児島市産婦人科医院跡からホルマリン漬けにされた「胎児」が発見されたということが起こっているけれど*1


阿部花恵*2「17歳のアルバイトは、中絶された胎児の処置だった――漫画家・沖田×華さんが描く、産婦人科の光と影」http://www.huffingtonpost.jp/2015/07/10/bakka-okita-tomeinayurikago_n_7767708.html


2015年の記事。


産婦人科医院を舞台にした『透明なゆりかご』という漫画が注目を集めている。FacebookTwitterでは「夫婦で泣いた」「出産経験があるなしに関係なく心にくるものがある漫画」「男性にこそ読んでほしい」といったさまざまな感想がアップされ、男女を問わず大きな反響を呼んでいる。

作者の沖田×華(おきた・ばっか)さんは元看護師。17歳の夏にアルバイトをしていた産婦人科医院で、看護師見習いだった彼女の仕事は「命だったカケラを集める」、すなわち中絶された胎児の処置だった。

初めて立ち会った中絶の現場、不倫相手の子を産んだ女性、紙袋に入れて捨てられた赤ん坊......。沖田さんが間近で見てきた真実はどれも胸に突き刺さる。実体験をもとに産婦人科の語られざる"闇"に光をあてた沖田×華さんに、作品に込めた想いを聞いた。


私の前に別の実習生がいたんですけど、彼女が貧血で倒れたので「ちょうどよかった、来て!」って先生から呼ばれたんですよ。それで(手術室の)ドアを開けたら、女の人がパカーッて内診台で足を開いてて、それだけでもう「うわああ!?」って内心びっくりで。

そのとき初めて真正面から中絶のオペを見たんです。漫画では(自分を)無表情に描いてますけど、マスクの下はあわあわ状態というか、心の中で悲鳴をあげてましたね。ああ、こういうことやっていたんだ、って。

それで手術の終わり際に、先生から「この中のものをケースに入れて」と渡されて、なんだかよくわからないままに受け取って、ホルマリン液に入れて初めて「あ、これってもしかしたら赤ちゃん?」ってわかったんです。

グロいとか気持ち悪いっていう感覚はまったくなくて、すごく不思議な気持ちになりました。今、ついさっきまで生きていたのが、なかったことになってしまった不思議というか。胎児って半透明ですごくきれいなんですよ。だからポーッと見ていた覚えがあります。


中絶の手術自体はすぐ終わるし、ほとんど体に傷付けないような方法でやっているんです。でもやっぱり手術を受けて、心に傷を負ってしまったことは伝わってくる。「自分にはもう子供を産む資格がない」と思い込んでしまう女性も多いんです。

じゃあ中絶をした女性は一生そのことで苦しめ続けられなきゃいけないのか、っていうと私はそうじゃないと思うんです。

あまり人に言えないことだから、一人で思い詰めてしまうんだろうけど、実際は、いろんな事情があって結果的に大勢の人が同じことをしているわけで。

だから軽く考えていいとはもちろん言えないですけど、そんなに自分を追い詰めないでほしいということは伝えたい。だって自分ひとりで妊娠したわけじゃないんだから*3。だから中絶を「悪いこと」というような描き方は絶対にしないように気をつけています。

たとえ昔、中絶したことがあったとしても子供は産めるし、その子を介して幸せになる権利はもちろんある。私はそう思っています。