「美しいと感じるのは」

近代秀歌 (岩波新書)

近代秀歌 (岩波新書)

永田和宏*1『近代秀歌』の「はじめに」に曰く、


藤原俊成はその著『古来風体抄』のなかで、桜の花を見てそれを美しいと感じるのは、私たちが花を詠んだ名歌を数多く知っているからなのだと喝破した。普通は花が美しいから感動する、歌に詠むと考えるだろう。しかし俊成は、そうではなく、私たちが花を見て美しいと感嘆するのは、私たちの心の奥深くに刷りこまれてきた、花を詠った歌の数々によって、花を美しいと感じる感性がおのずから形成されているからなのだと言うのである。はるか昔に、パラダイムシフトとでも形容したくなるような、このような透徹した透視力を持った歌人がいたことに感動を覚えるのである。(pp.i-ii)
中世歌論集 (岩波文庫 黄 110-1)

中世歌論集 (岩波文庫 黄 110-1)