或る日の隠蔽

承前*1

Catherine JiHye Go「生まれつき茶髪だった私はあの日、学校の密室に閉じ込められた。」https://www.buzzfeed.com/jp/catherinejihyego/brownhair


これも、日本の学校の黒髪強制に苦しめられた人の話。


高校2年生の秋、ちょうど今くらいの季節だった。

私は突然、学校内にある密室に閉じ込められた。

その日は入学を希望する親子による学校見学があり、外部から見知らぬ人たちがたくさん訪れていた。

私の姿を外部の人に見せまいと、先生が私を小さな部屋に閉じ込めたのだ。

「あなたみたいな生徒がいると、うちの学校が勘違いされる」

その言葉は、先生の表情と共に今でもときどき鮮明に思い出す。

密室に閉じ込められていた1〜2時間は、気が遠くなるほど長い時間だった。

勿論スマホもないしパソコンもない。ただ白い小さな机が一つ置いてあるだけの独房のような部屋だった。

壁を一つ挟んだ廊下から、先生の甲高い声と親子の賑やかな会話が聞こえてくる。

私は話す相手もいなくて、ただひたすら壁を見つめるしかなかった。

「私が一人でここから身動きできずにいるのって、なんでだろう」

密室に閉じ込められた理由は、頭髪の色だった。私は日本の血が1%も入っていない外国人で、生まれた頃から髪色は濃い茶色だった。

しかも6歳からずっと続けている水泳のせいで、塩素の作用によりかなり明るい茶髪になっていた。

中学の頃から;

中学生の頃に何度か校長室にまで呼び出され、黒染めを強要されていた。

あの時の自分は、先生に従うしかなかった。

直感でおかしいと思ったことがあっても、若さ=未熟さだと思って、先生の意見の方が正しいに違いないと信じていた。

その都度指示に従って黒染めしたが、年中ほぼ毎日のようにプールに入っていたので、すぐに髪色は明るくなる。

3年間ずっとその繰り返しだった。

髪の毛が痛みすぎてしまったのか、3年生の夏にはほぼ金髪に近い状態になってしまった。手触りがキシキシで、人形のような毛だった。

中学を卒業し、私立の高校に入学した。入学時に改めて黒染めした髪も夏には茶髪になっていた。

地毛が黒髪の生徒がほとんどだったので、全体的に見ると少し目立っていたかもしれないが、私にとってはこれがナチュラルな自分の姿だった。

校則には確かに「染髪禁止」と記載されていた。

私が黒髪にしたことは「染髪」にならなかったのだろうか。


高校に入学してすぐに水泳部に入部した。

それと同時に、担任の先生には、生まれつきの髪色の話も塩素でさらに色が抜けてしまっている話も伝えた。私が外国人であることは名前を見ればわかる。

それでも定期的に他の先生に呼び出されたりして、結果として黒染めを強要された。

その都度ドラッグストアに駆け込んで染髪剤を買い、自宅のお風呂で染めた。

親はいつも「先生に言われたのなら仕方ないね」と、黒く汚れたお風呂場を掃除してくれた。今よりももっと「先生の言うことは絶対!」の時代に教育を受けた親だ。

何度染めても結局はその場しのぎにしかならず、すぐに明るくなってしまう。

無意味なことをずっと繰り返しているようで虚しくなってくるし、ナチュラルな姿で生きても否定される自分の存在に次第に嫌気がさしてきた。

「悪いのは自分なんだ」。今考えると、そのような思考回路になってしまってもなんらおかしくない環境だった。

今回ニュースになった女子高生のように、一時期不登校気味にもなった。

朝家を出ても学校の方に足が向かず、逆方向の電車に乗ったり、学校に行っても昼休みに抜け出して家に帰ったりしていた。

これはひどい! としか言いようがないけれど、逆に問うてみるべきなのは、何故日本の学校や教師、特に中学や高校という初等でも高等でもない中等教育を担う学校や教師たちは、かくも強迫的に黒髪・直毛に固執するのかということだろう。「茶髪」にするのはヤンキーの特権だと思い込んで、一般生徒が「茶髪」にするのに戸惑っていた或る時期のヤンキーと類似した心の構えが存在するのだろうか。