或る「廃棄」処分

京都新聞』の記事;


桑原武夫氏の蔵書1万冊廃棄 京都の図書館、市職員処分



 京都大人文科学研究所を拠点とした「新京都学派」を代表する仏文学者、故桑原武夫氏(1904〜88年)の遺族が京都市に寄贈した同氏の蔵書1万421冊を2015年、当時、市右京中央図書館副館長だった女性職員(57)が無断で廃棄していたことが27日、分かった。市教育委員会は同日、女性を減給6カ月(10分の1)の懲戒処分とした。

 蔵書は1989年に市国際交流会館(左京区)が開館した際に寄贈され、一般公開されていた。市教委によると、2008年に京都に関する資料を収集する機能を備えた右京中央図書館がオープンしたのに合わせ、蔵書を同館に移動させたが、保存場所がないとして、向島図書館の倉庫に移した。15年に向島図書館の職員から、「置き場所がなく処分したい」と女性職員に相談があり、了承したという。

 今年2月、市民から「蔵書を閲覧したい」と右京中央図書館に問い合わせがあり、同館職員が「廃棄した」と答えたため、市民が市教委に連絡。市教委が調査し、発覚したという。市教委は「貴重な蔵書を廃棄してしまい、大変申し訳ない」と話している。

 女性職員は生涯学習部の担当部長で、27日付で部長級から課長補佐級へ降任した。

 蔵書は日本文化研究、日本と世界の名著などの全集類のほか、政治や哲学の仏語原書など。右京中央図書館には、現在も「桑原武夫コーナー」として、桑原氏が生前に使用していた机や椅子、直筆のノートなど20点が置かれている。

 桑原氏は「赤と黒」で知られる小説家スタンダールや「社会契約論」を著したルソーなどフランスの文学や哲学、評論などの研究で知られる。研究対象は人文科学全般に及び、哲学者の故鶴見俊輔氏や民族学者の故梅棹忠夫氏ら多くの学識者に影響を与えた。国際日本文化研究センター西京区)の創設にも尽力。京大学士山岳会の遠征隊長を務めるなど登山家としても知られる。

【 2017年04月27日 15時00分 】
http://www.kyoto-np.co.jp/local/article/20170427000086

これは市長がフラッシュを浴びながら頭を下げるべき案件だろう。桑原武夫*1コレクションを「廃棄」したということそれ自体が野蛮な暴挙なのだが、それ以上にというか、図書館組織のマネージメントの準位で問題なのは、一挙に1万冊以上の本が文字通り闇から闇へと葬られたということだろう。


榊原雅晴「<桑原武夫蔵書>遺族に無断で1万冊廃棄 京都市が謝罪」https://news.biglobe.ne.jp/domestic/0427/mai_170427_4864010317.html


この『毎日新聞』の記事によると、細部の事情はちょっと違っているようだ;


蔵書は、和漢洋の古典や文学、哲学、風俗など。学術的価値の高い一部は京都大などが保管しているが、市は名誉市民でもあった桑原さんの幅広い関心を物語る貴重なコレクションとして88年に寄贈を受けた。

 市教委が遺族に伝えた報告によると、蔵書は当初、市国際交流会館(同市左京区)に書斎を再現した「桑原武夫記念室」で保管していた。2008年に新しく完成した右京中央図書館(同市右京区)に記念室を移した際、蔵書については市立図書館全体の図書と重複が多かったため、正式な登録をせずに旧右京図書館(同区)で保管。翌年に向島図書館(同市伏見区)の倉庫に移した。

 その後、向島図書館も改修のため保管できなくなり、施設管理担当の職員が右京中央図書館の職員に相談。この際、蔵書に関する問い合わせが08年以降1件のみと活用されている状態でなかったことや「目録があれば対応できる」との判断から、遺族に相談せずに15年12月に廃棄した。

 今年2月に一般利用者からの問い合わせで判明。市教委は3月、「先生の活動のもととなった貴重な蔵書を職員の認識不足で廃棄してしまった。取り返しのつかないことになり申し訳ない」と遺族に謝罪したという。