「懲戒」から「和解」へ

『読売新聞』の記事;


富山大元准教授、懲戒解雇処分変更で大学と和解
2016年12月02日 18時03分



 虚偽の業績を書類に記載したとして富山大に懲戒解雇された元准教授の竹内潔氏(60)が、富山地裁に地位保全の仮処分命令を申し立てていた問題で、竹内氏側は29日、富山大と和解が成立したと発表した。

 和解では、富山大が退職手当と解決金計757万4690円を竹内氏に支払い、処分を懲戒解雇から60日間の出勤停止に変更して自己都合退職とする。

 富山大人文学部の准教授だった竹内氏は2013年6月、2000〜12年度に教授昇任選考書類などに虚偽の業績を延べ37回記載したとして懲戒解雇された。竹内氏は処分を不服として14年12月、富山地裁に地位保全の仮処分命令を申し立てた。富山地裁は今月9日、和解条項案を提示し、両者が受け入れた。

 竹内氏は「懲戒権の濫用を富山大が認めたという成果があったと考えるが、十分に満足いくものではない。今後、不公正かつ恣意的な手続きや審査による処分で教員の研究や教育の途が閉ざされる事態が二度と生じないよう強く希望する」との談話を出した。

 富山大は、和解に応じたことを認め、「60日間の出勤停止は懲戒処分。業績の虚偽記載を行ったことは裁判所で認定され、復職も認められなかったと考えている」とコメントしている。
http://www.yomiuri.co.jp/national/20161202-OYT1T50076.html

さて、発端となった2013年の「懲戒解雇」だが、現在ネット上で読める新聞記事は『朝日新聞』の記事(の一部)だけみたいだ。

虚偽の研究実績37回記載 富山大、准教授を懲戒解雇


 【下山祐治】富山大は13日、虚偽の研究実績をのべ37回にわたり業績目録や申請書類などに記載したとして、人文学部の男性准教授を6日付で懲戒解雇の処分にしたと発表した。同大が研究に絡んで最も重い処分の懲戒解雇としたのは初めてという。

 同大総務部人事労務グループによると、2011年12月、教員人事の際に准教授から人文学部に提出された書類に虚偽が見つかり、同学部から学長あてに調査の申し立てがあった。

 その後、事実関係を調べる懲戒委員会を設置、12年2月〜今月に委員会を計17回開いて、調査や准教授への事情聴取を行った。
http://www.asahi.com/edu/articles/OSK201306140054.html

一見さんが読めるのはここまで。ここまでの範囲では竹内氏の名前は特定されていない。
竹内氏は文化人類学(生態人類学)専攻で、アフリカの狩猟採集民の研究家*1。不勉強でお名前とか業績とかは存じ上げなかったが、頗る興味深いことはたしかだ。
そのような竹内氏を「懲戒解雇」に追いやった「虚偽の研究実績」の「記載」とは
如何なるものなのか。上に示した新聞記事ではそこら辺の事情は全然明らかにならない。すると、やはり文化人類学者である安渓遊地氏(山口県立大学)のblog*2でこの〈竹内処分問題〉を採り上げていることがわかった*3。「「竹内潔氏の復職を支援する会」・世話人一同のコメント」から引用してみる;

竹内潔氏に対する懲戒解雇処分は、文系研究者の常識から見て、きわめて異例で、異常なものでした。たとえば人事の場合、文系では、公刊され内容が確定している著書は研究業績として認められ審査対象となりますが、研究業績リスト等に「刊行予定」等と記載された未公刊の著書は実際に公刊されるまで内容が確定しませんから、研究業績として認めるかどうかは、個々の人事選考を担当する委員会の責任と裁量に任されます。委員会では、一切認めない場合もありますし、研究業績として認める基準(原稿、出版証明書、ゲラの提出など)を設定する場合もあります。研究業績リストに記した著書が設定された基準から外れた場合、記載したことが咎められるということは生じません。たんに、その著書が審査対象から外されるだけです。

つまり、応募者は、研究業績リストに記載した未公刊の著書の取り扱いを審査側に委ねるのが文系の慣行です。まして、竹内氏の人事や学長裁量経費の場合では、審査側から、研究業績として認める基準が示されることさえなかったのですから、同氏の記載が問題になるはずはありません。実際、私たちが知るかぎり、全国の文系学部で、研究業績リスト等の業績記載で、懲戒解雇はおろか、軽度の懲戒処分を受けたという事例もありません。富山大学は、学術雑誌に受理された時点で論文の記述内容が確定するために厳密な基準が設定できる理系の基準を援用して、強引に竹内氏の記載を「虚偽」・「架空」と断じ、さらに研究者にとっては目次にすぎない研究業績リストの記載を「経歴の詐称」とみなすという著しい拡大解釈をおこなったのです。
http://ankei.jp/yuji/?n=2256

争点は「未公刊」「刊行予定」のテクストの取り扱いということになる。
また、竹内氏自身のコメントも掲載されている;


「#富山大学_#懲戒解雇_処分)処分撤回までの長い道のりを被害者の_#竹内潔_氏は語る_#富山大 RT_@tiniasobu」http://ankei.jp/yuji/?n=2255

*1:See http://researchmap.jp/read0132556/ また個人サイトはhttp://www.ktak.jp/Tak_top.htm

*2:http://ankei.jp/yuji/

*3:Eg. 「大朗報)#懲戒解雇_取り消し #富山大学_と元准教授・_#竹内潔_氏が和解 退職金+解決金の支払いへ。毎日新聞富山版 2016年11月30日付け_#富山大_RT_@tiniasobu」http://ankei.jp/yuji/?n=2252