「親しみの配合」

堀江敏幸「分かちがたく結ばれた友」(『定形外郵便』*1、pp.112-115)


曰く、


(前略)たとえば「友人」と口にするとき、ほんの一瞬、ためらうことがある。そう呼ばせてもらった人物とこちらの関係が、はたして語義の許容範囲に入るかどうか自信がなくなり、親しさの度合いからしてほかにもっと適切な表現があるのではないか、相手に対して礼を失していないかと不安になるのだ。「友だち」ではややなれなれしい感じがするし、「知人」や「知り合い」では距離がありすぎる。まして「親友」と呼べるような間柄ではない。「むかしから知っている人」と開いた表現にしても、よけいなニュアンスが加わってしまう。いちばん簡潔で理想的なのは「友だち」という複数を本来の単数に戻した「友」だろうか。独特のぬくもりがあって、一文字ながら他のどれよりも深い気がする。(p.112)