津田沼の吉本隆明或いは飢餓の帰結(メモ)

宗教論争

宗教論争

吉本隆明って戦争の時に津田沼*1に芋の買い出しに行ったことがあるんだね。私の親は埼玉(東上線沿線)に買い出しに行ったと行っていたけれど、東京でも食糧買い出しに埼玉方面に行ったところと千葉方面に行ったところがあるわけだ。
吉本隆明と小川国夫の対談「宗教と幻想」*2(in 『宗教論争』)から;


小川 太平洋戦争の時代を生きてきた人は、だいたい飢餓というものを知っている。どんな物でも食べ物でありさえすれば、そしてそれがたくさんあれば、腹が痛くなるまで食べちゃう。ひどい空腹のところへつめこむと、腹が痛くなるんですよね。死ぬ危険さえ時にはあるんだそうです。そういった飢餓でしたね。
吉本 当時、学生でしたけど、食べ物があれば動けなくなるまで食べましたね。そんなことはめったになかったけれど。寮で金をかき集めてきて、皆で買出しに行って徹底的に食べて動けない。おぼえています。
小川 その後、また食べられなくなるという不安があるからでしょうね。
吉本 そうですね。それと、ふだんいつでも少しずつ足りないでいる。慢性的な欠乏感が積み重なっていって、いくところまでいくとどうにも我慢できない。パァーッとやろうじゃないか、そういう心理的なものですね。
小川 その時の欠乏感の影響がどっかに残っているでしょう。
吉本 欠乏感としてというより、分離感、孤立感として残っているように思いますね。人間というのは信じられないなあという。
たとえば千葉県の津田沼というところにお芋を買いに行く。農家はにべもなくするんですよね。こういう時代を経た人というのは、文学でいえば、――ぼくらの年代以前の人ですと大論争しても、あとで飲み屋さんでやあやあということがあるかもしれませんけど――、ぼくらの年代の人は、とても激しい論争をすると、もうあとには戻らない、お前とは一生口をきかないぞというところまで行っちゃうことがあります。そのかわり本気になってやるまでには、ずいぶん、我慢はしますね。いったんやるともう絶対に戻らない。そうした分離感というか孤立感は日本ではたいへんきついわけです。中国では魯迅が誰それと論争して、そういうことを言ってもいいのか、というような激論をやってますね。しかし彼らは、いっぽうが北京にいっぽうが上海にといった具合で一生会わなくてすむ、だから出来るんです。日本では、どこかで出会ってやあやあってことになるんでしょう。いまは、国土が狭いからそうだ、というじゃなくて、さっき言ったようにかなりきびしく対していると思います。
政治的なことでもたしかにそう言えます。個と個との論争は、まあいろいろでしょうけど、集団と個が激しくぶつかった場合、一度訣別するともう絶対だめですね。ぼくの前の年代までは、また何かの拍子にやあやあいっしょにやりましょうということになる。ぼくらはそれがないんですよ。少なくともぼくは絶対だめですね。安直なつきあいや論争はとてもできません。簡単に認めたり、手軽に批判したりする、そういうことはないです。ぼくは、選挙のときなどに電話の一本で、あなたの一票をくださいとか言ってくる、馴れ合いの感じね、正しくないと思いますね。
飢餓状態を経てきた人に限るかもしれませんが、でもぼくら以降に大なり小なり影響をひいていると思います。
小川 血を流すところまでいけばどういうことになるか、もうその関係はだめでしょうが、とことんやり合えばどっかでつながれるといった心理もあるように思います。食糧をやるとかやらないとか言っている段階からさらに突っこんで殴り合うところまでやれば相手とつながれる、そういう妙な心理が働くこともあるようです。(pp.60-62)

*1:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20051218 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20051222/1135275271 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060321/1142907905 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060605/1149470343 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060605/1149536524 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070326/1174934267 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070329/1175189030 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20071114/1195038331 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20071115/1195140448 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080527/1211839756 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081113/1226545815 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081119/1227020662 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090909/1252508806 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090912/1252725447 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090914/1252861696 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100518/1274146122 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101015/1287076650 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110514/1305390505 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20111230/1325254183 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120115/1326643979 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120223/1330015093 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120310/1331389760 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120419/1334803429 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130129/1359423631 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130326/1364263746 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130408/1365437101 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130413/1365875653 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130417/1366211836 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130607/1370563792 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130804/1375542400 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20140614/1402706065 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20140713/1405216656 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20140723/1406083089

*2:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130515/1368634116 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20140808/1407467808 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20140809/1407551203