サドの研究者だったら?

承前*1

『朝日』の記事;


カント愛した元院生、存在感薄く 岡山・女児監禁容疑者

2014年7月26日10時30分

 岡山県倉敷市の女児(11)が監禁され、5日後に保護された事件で、逮捕された岡山市北区の無職藤原武容疑者(49)は、大学院で哲学を学び、研究者を志した寡黙な青年だった。監禁容疑での逮捕から26日で1週間。県警は未成年者略取容疑での立件に向けて、事件の全容解明を進める。

 「カントを愛している」

 約20年前、大阪大学大学院の博士課程で倫理学を専攻していた藤原容疑者は、研究室の宴席で同窓生にこう打ち明けた。寡黙で勉強熱心。青春時代の藤原容疑者を知る人たちの印象は似通う。交友関係は少なく、存在感は薄かった。

 地元の私立高校を出て、一浪して法政大学に進学。その後、ドイツの哲学者カントに心酔し、大学院の研究室で研究者を志した。

 だが、学問の壁に突き当たる。学友が順調に助手や教職に就き始める中、1人だけ就職先が見つからなかった。ある同窓生は「進路が決まらず焦っていた。気まずかったのか、周りに気づかれないように単位取得退学した」と話す。1995年ごろのことだ。

 大学院を退学した後は、家庭教師などの職を転々としていたようだ。96年〜99年ごろは、大阪府内の公立中学校で夜間に校内を見回る宿直員として働き、宿直室で寝泊まりしていた。

 同じ時期に勤務した男性教諭は「岩波書店の難しそうな本を黙々と読んでいた。無口だが愛想がよく、先生や生徒とあいさつを交わしていた」と話す。休日の電話番を引き受け、部活動の早朝練習に来る生徒のために、早起きして校門を開けていたという。
http://www.asahi.com/articles/ASG7T3K6VG7TPTIL00B.html

とても身につまされる。俺も何かがあったら、現象学やらシステム論やらのことをネタにされ、あれこれとメディアの晒し者になるんだな。それにしても、またネタ元は「同窓生」か*2
「学友が順調に助手や教職に就き始める中」とあるけれど、一般に哲学のアカデミックなポストへの就職は厳しく、多くの学徒がそれでも経済的・社会的に厳しい中、細々とでも研究を続けているということを知っている。これで哲学専攻というのはキモオタと並んでスティグマになってしまうのだろうか*3。そうでなくても、既に無教養な俗人どもによる白眼視の対象となっているわけだが。
天漢日乗*4がこれに対して反応している*5森岡正博*6の呟き*7を援用しつつ;

容疑者は、他者を道具化したいとの傾向性を克服すべくカントを敬愛していたが、ついに自己の傾向性に負けた、とするのが妥当な解釈。容疑者とカントの親和性は明らか。(後略)
カントといえば中島義道*8。藤原武は〈中島義道になれなかった男〉ということになる。また、彼が(カントと同時代人である)サドの研究者だったら世間はどう反応したんだろうねと思ってしまう。