山口昌男先生が亡くなる

朝起きて、「注目キーワード」に「山口昌男」が入っているのを見て、吃驚した。山口昌男先生が亡くなったんだ! まあ数年前から年寄りが亡くなるのを聞く度に、もしかして次は……という不吉な予感がしていたことも事実なのだが。
NHKの報道;


文化人類学者の山口昌男氏死去
3月10日 13時21分


独自の文化理論で知られる文化人類学者で札幌大学の学長などを務めた山口昌男さんが、10日未明、肺炎のため亡くなりました。
81歳でした。

山口さんは北海道生まれで、東京大学文学部を卒業後、東京都立大学の大学院で文化人類学を学びました。
アフリカやアジアでフィールドワークを行った成果などを基に、「中心と周縁」と呼ばれる独自の理論や道化の役割に光を当てた、「トリックスター論」に取り組み、多くの読者に影響を与えました。
また、敗者の側から見た歴史観に注目した、『「敗者」の精神史』を発表するなど、学問の分野の枠を超えた幅広い業績を残しました。
東京外国語大学などで長年研究を続けたあと、平成11年から4年間、札幌大学の学長を務め、おととし文化功労者に選ばれました。
親族によりますと、山口さんは4年前から脳梗塞を患って入院生活を送っていたということで、肺炎を併発して10日午前2時すぎ東京・三鷹市の病院で亡くなりました。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130310/k10013088521000.html

『朝日』の記事;

文化人類学者の山口昌男さん死去 「中心と周縁」理論

朝日新聞デジタル 3月10日(日)10時11分配信


 「中心と周縁」「トリックスター(いたずら者)」などの文化理論で、1970年代から日本の思想に大きな影響を与えた文化人類学者で文化功労者山口昌男(やまぐち・まさお)さんが、10日午前2時24分、肺炎のため東京都内の病院で死去した。81歳だった。通夜は15日午後6時、葬儀は16日午前11時から東京都府中市浅間町1の3の府中の森市民聖苑で。喪主は妻ふさ子さん。

 北海道生まれ。東京大国史学科卒。東京都立大(現・首都大学東京)大学院で文化人類学を学び、アフリカで神話や王権の聞き取り調査を重ねた。東京外国語大教授や札幌大学長などを歴任。日本民族学会(現・日本文化人類学会)会長を務め、海外の大学でも教えるなど、国際的に活躍した。

 専門分野を自由に横断する学風は、80年代の浅田彰さんや中沢新一さんらによる「ニューアカデミズム」にも大きな影響を与えた。著書は大佛次郎賞を受けた「『敗者』の精神史」のほか「アフリカの神話的世界」「道化の民俗学」「文化と両義性」など多数。

朝日新聞社

最終更新:3月10日(日)19時14分
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130310-00000010-asahi-soci

アフリカの神話的世界 (岩波新書 青版)

アフリカの神話的世界 (岩波新書 青版)

文化と両義性〈哲学叢書〉

文化と両義性〈哲学叢書〉

道化の民俗学 (ちくま学芸文庫)

道化の民俗学 (ちくま学芸文庫)

自分にとっての〈知的昭和〉が終焉してしまったという感じがする。sumita-mの(少なくとも)20%は山口昌男からできているといっても過言ではないのだ。上の記事でも言及されている「トリックスター」論や「道化」論には重大な思想史的・知識社会学的な意味があるのだが、それを論ずる余裕は今ない。
宮崎純という内科医の方曰く、



 山口昌男氏がなくなったらしい。氏を「さん」と呼ぶような関係ではまったくないが、わたくしが中学でか高校でか氏に日本史を習ったことがあるということでそう書かせてもらう。

 氏がまだ無名の時代で、その授業の内容もまったく覚えていないのだが、白土三平の漫画について、「この人いまに有名になるよ」などといったり、手塚治虫からの年賀状か何かを見せてくれたりしたことがあり、漫画に関心があるひとなのかなと見当違いのことを思っていた。

 今から思うと、その片鱗がみえていたのかもしれないのは、マレビト論のようなことを語っていたことがあったように記憶しているし、民族のもつ神話の重要性のようなことも言っていたように思う。

 大学に入り、高校時代の仲間とあったときに「山口先生、有名になってきているね」というような話題が出たことがあったが、その時も氏がどんな方面で有名になってきているのかも知らなかった。

 そのうちに文化人類学者・山口昌男としてあちこちで名前を見るようになった。氏の著作で初めて読んだのが何であったかはもう覚えていないが、決定的に打ちのめされたのが「本の神話学」、特にその中の「20世紀後半の知的起源」と「ユダヤ人の知的情熱」である(わたくしの持っているのは「中公文庫」で、昭和53年1月再版となっている)。なんでこんなにいろいろなことを知っているのだろうと、ただただ感嘆した。この本でピーター・ゲイの名前も知ったし、その「ワイマール文化」という本も知った。ワールブルグ研究所もここで初めて知った。カッシラーとかパノフスキー、ゴンブリッジなども名前もそうだったと思う。図像学などという言葉を知ったのもこの本でだったと思う。怖いなと思ったのは「ワイマール文化」の邦訳の間違いなどに容赦のない指摘をしていた点で、学問の世界は厳しいと感じた。

 ツヴァイクの「昨日の世界」を知ったのもたぶんここでだったと思う。バフチンとそのロシア・フォルマニズムとかも、そうだったと記憶している。とにかくヨーロッパの知性というのはその頂点にいる人々の能力たるや半端なものではないこと、そしてそれらと張り合っていこうとしている知性が日本にもいることをこの本は教えてくれた。
http://d.hatena.ne.jp/jmiyaza/20130310/1362928078

麻布学園出身の方か。川本三郎山下洋輔と同じように。『本の神話学』が言及されているけれど、私が初めて(単行本として)読んだのは同じ中公文庫の『歴史・祝祭・神話』だった。たしかトロツキストの知人から薦められたんだと思う。
本の神話学 (中公文庫 M 60)

本の神話学 (中公文庫 M 60)

歴史・祝祭・神話 (中公文庫 M 60-2)

歴史・祝祭・神話 (中公文庫 M 60-2)

またecotalkという方曰く、

人類学者の山口昌男さんが亡くなられた、自分を「本」の世界に導いてくれた人のひとりです。最初に読んだ本は中村雄二郎との共著である「知の旅への誘い」だったと思います。この本は自分でも啓発されたし、若い人には読むことを薦めたい一冊です。

そして山口昌男さんの本はかなり読んできました、周辺論とか神話、道化、そして敗者学と影響を受けたというか刺激をずっともらい続けました。

古本屋になる前でしたが、NHKの番組「わが心の旅」で山口昌男さんがベルギーのブリュッセルから最後はルデュに古本屋を旅をする番組を見ました。

今、自分が追分で古本屋になって「本のまち・軽井沢」という活動に熱をいれているのもこの山口昌男さんの古本旅の番組に夢をもらったからです。
http://d.hatena.ne.jp/ecotalk/20130310

知の旅への誘い (岩波新書)

知の旅への誘い (岩波新書)

さらに、


一条真也山口昌男先生の思い出」http://d.hatena.ne.jp/shins2m+new/20130310/p3


もマークしておく。
山口昌男先生については、http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070430/1177912932 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070523/1179897577 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080116/1200506920 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080825/1219599350 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090922/1253594813 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091208/1260270282 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100116/1263614862 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100130/1264834811 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100206/1265435465 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101228/1293511035 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110204/1296794711 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110208/1297180408 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110219/1298093110 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110222/1298351689 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110226/1298700874 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110609/1307650973 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110813/1313253565 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110924/1316802079 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120316/1331898804 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120926/1348620790でも言及している。