シベリアのユダヤ人(メモ)

以前Anna Reidのシベリア紀行The Shaman's Coat*1を読んでいたのだが、最近Liliane WillensのメモワールStatelss in Shanghai*2を読んでいて、Anna Reidの本には重要な登場人物が欠けているということに気づいた。それはユダヤ人である。先ず露西亜*3における反ユダヤ主義というのは西欧と比べてもスケールが違った。皇帝(ツァー)や正教会が公認・煽動してのユダヤ人虐殺(ポグロム)が何十年か置きに反復されるということは西欧においてはナチスの擡頭まではなかったと言えるだろう。また、20世紀になってもユダヤ人はゲットー以外の場所に居住することは原則として禁止されていた*4。そこで、帝国内の多くのユダヤ人は反ユダヤ主義が緩かった辺境のシベリアに移住した。そこでは、ゲットーの外に住む自由があり、一般の露西亜人との統合教育も行われていた。しかし、反ユダヤ主義が再び激化したのは十月革命後の内戦期である。白軍は赤軍ボルシェヴィキ)と対決する一方で、ユダヤ人を虐殺しまくった。他方、ユダヤ人は自営業者が多かったので、ブルジョワとしてボルシェヴィキによる迫害の対象ともなった。かくして、シベリアのユダヤ人は、ハルピン、さらには日本(神戸)や上海への移住を余儀なくされることになる。

The Shaman's Coat: A Native History of Siberia

The Shaman's Coat: A Native History of Siberia

*1:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100420/1271744921 Also mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100325/1269494305 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110222/1298351689

*2:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100222/1266807846

*3:ここでいう露西亜は現在の所謂露西亜連邦だけでなく、旧露西亜帝国或いは旧蘇聯領のウクライナベラルーシなども含む。

*4:Liliane Willensの母方の玄祖父Pavelは25年間軍務に就いていたので、ゲットー外に居住する特権を与えられた(p.8)。