世俗主義は実は宗教的、など

『朝日』の記事;


イスラム女性の顔覆うベール、仏与党が禁止法案 罰金も

2010年1月8日22時17分


 【パリ=飯竹恒一】イスラム教徒の女性が顔をすっぽり覆う「ブルカ」などのベールについて、公共の場での着用を禁止する法案をフランス与党が準備し、「違反すると750ユーロ(約10万円)」との罰金条項が盛り込まれる見通しとなった。仏メディアが与党幹部の発言として7日伝えた。

 法案は、文化的行事の際などを除き、街頭などでの着用も含めて原則禁止としているうえ、着用を強制した者にはさらに重い罰金刑が科される条項も盛り込まれるという。

 ブルカやニカブと呼ばれるこうしたベールはアフガニスタンなどで着用が広がっているが、フランスでは女性抑圧の象徴とみられている。仏国内でも着用の動きがあるため、昨年、国民議会(下院)に調査委員会が発足。サルコジ大統領も「女性の尊厳の問題」として「歓迎されない」と発言していた。

 ただ内務省によると、仏国内でブルカなどを着用しているのは1900人程度で、法律で禁じるほどの数ではないという指摘があるほか、そもそも衣服を規制するのは女性の人権侵害という声もある。最大野党の社会党は法案に反対を表明。国内外のイスラム関係者の反発も招きそうだ。

 政教分離を徹底するフランスでは、2004年に公立学校でのイスラム教のスカーフ着用が禁止されている。
http://www.asahi.com/international/update/0108/TKY201001080106.html

2つ指摘しておく。
先ず「ブルカ」が禁止されることの効果。仏蘭西国内において、マジョリティとムスリムに緊張関係がある以上、禁止されることによって、或いは禁止への圧力が(マジョリティ側から)強まることによって、「ブルカ」はイスラームアイデンティティの、さらには抑圧への抵抗のシンボルとしてオブジェクト化され、結果として、ムスリム・コミュニティ内部での「ブルカ」着用への圧力を強化してしまうことになりえる。
もうひとついえば、世俗主義的(反教権主義的)若しくは反宗教的なイデオロギーは宗教的なパッションなくしては遂行し得ない。デュルケームはそのことを自覚していたといえる。仏蘭西的なナショナリズムはそもそもその起源たる革命において、従来の宗教に替わる宗教を創設しようとした(cf. eg. 立川孝一『フランス革命―祭典の図像学』)。勿論、〈宗教〉に対する遇し方、様式や程度の違いはあっても、このことは世界のどの世俗的ナショナリズムにも当て嵌まることだろうけど。また、完全に非宗教的な政治イデオロギーが可能なのかどうかも真剣に思考されるべきだと思う。何故なら、(例えば)〈死〉のような限界状況(marginal situation)に関係しない政治イデオロギーは存在しないからだ。
フランス革命―祭典の図像学 (中公新書)

フランス革命―祭典の図像学 (中公新書)

イスラームとヴェールの問題については、http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081012/1223807528も参照のこと。


また、『毎日』の記事;


フランス:「フランス人とは何か」サルコジ政権が問い ゆがむ論議、広がる反発

 <世の中ナビ ワイド NEWS NAVIGATOR 国際>
 ◇「崇高な運動」か「移民・イスラム排斥」か

 「フランス人とは何か」。そんな根源的な国民論議がフランスで続いている。国民の10人に1人が移民(不法移民も含む)であるという現実を前に、保守派のサルコジ政権が「フランス人を定義し、国民の誇りを再確認しよう」と呼び掛けた。フランス語を話す、国歌を歌える、伝統的な政教分離主義を守る、などさまざまな意見が出る一方で「こうした論議自体、移民やイスラム教徒の排斥につながる」との反発も強くなっている。【パリ福原直樹】
 ◇国歌斉唱は義務?

 政府が昨年10月、国民に求めた論議のテーマは「仏国民とは何か」「フランスや仏国民のアイデンティティー(価値観など)を移民がどう共有するか」の2点。移民省は全国約450カ所で討論集会を開く一方、インターネットの公設サイトでも意見を求めている。2月にも政府報告を行う予定だ。

 サイトには既に5万人が意見を寄せた。それによると仏国民の定義として、▽フランスを愛し国是の自由・平等・博愛の精神を信奉する▽(政教分離などを記載した)憲法を順守する▽キリスト教の伝統を受け入れる……などが出された。

 政府はその一方で、「若者に年1回、国歌の斉唱を義務付ける」「仏語や共和国の精神を学ぶ機会を設ける」などの政策を提案した。移民らがフランスの価値観を理解する一助にしたいという。
 ◇保守派からも批判

 だが、論議開始以降「反移民感情をあおるだけだ」との批判が、野党第1党・社会党や知識人、移民の間に広がった。フランスの移民は「外国で生まれた外国人で市民権取得などを目指して永続的にフランスに居住する者」との定義があり、仏国籍を取得した者も含まれる。

 人口約6100万のフランスには、不法移民を除くこうした移民が約500万人居住し、イスラム教徒も約600万人(移民との重複あり)いて、同化政策は仏社会で大きな問題となってきた。

 こうしたことから論議のテーマの設定自体が「移民やイスラム教徒にフランスの価値観を押し付けるものだ」との批判を呼んだ。社会党のオブリ第1書記は「(移民排斥の論議につなげることで)政府は移民に(失業などの)社会問題の責任を押し付けようとしている」と指摘した。

 保守派からも批判が出た。ジュペ元首相は「論議は国内の対立、特にイスラム教徒への反感をあおった」と発言。ドビルパン前首相も「こんな重大なテーマを経済危機で団結すべき時に持ち出すべきではない」と異を唱えた。

 一方、全仏組織の「イスラム教徒会議」幹部は「論議は(イスラム批判という)本末転倒の方向に向かう」と懸念を表明。「サルコジ大統領は3月の地方選を前に(ナショナリズムをあおり)移民排斥を求める極右票の取り込みを狙った」(野党・緑の党など)との指摘もあり、世論調査でも72%が「地方選を念頭にした論議」と見なした。
 ◇相次ぐ問題発言

 これらの懸念は当を得ていたとも言えそうだ。国民論議の集会で、政府の家族問題担当長官は「フランスの若いイスラム教徒に望むのは職を見つけ、俗語を使わず、帽子を逆向きにかぶらないことだ」と発言した。「イスラム教との共存の可能性」を問う質問への回答だったが、これは「イスラム教徒への中傷であり、国民論議イスラム(排除)が目的だ」(社会党など)と厳しい批判を招いた。

 また仏東北部での集会では、与党「国民運動連合」の地方幹部が「(移民は)何もせず金だけもらっている」「国民論議は必要であり(移民に)反撃する時だ」と述べた。一方、与党幹部は「仏国内のモスク(イスラム礼拝所)と、キリスト教聖堂の数が等しくなれば、この国はもうフランスではなくなる」と語ったと報じられた。

 「フランスのアイデンティティー確立」は、07年大統領選でのサルコジ大統領の公約で、大統領は国民論議を「フランスとは何かを知る崇高な運動」と強調している。だが当初、論議を支持した中立系のルモンド紙は、最近の社説で「論議は悪い方向に向かっている」と主張。社会党同様、論議の中止を求める立場に転換している。
http://mainichi.jp/select/world/news/20100111ddm012030061000c.html