嘆く人

承前*1

クローデン葉子「Brexitというパンドラの箱https://blog.ladolcevita.jp/2016/06/25/pandoras_box_called_brexit/


曰く、


最初は何が起こっているのかわからない、現実が理解できない、呆然とひたすらニュースを読みあさる、そして24時間以上経った今はショック、そして怒り、悲しみ、まだ信じられない、そしてまた怒り・・・
これは、ほぼ全額ポンド建ての我が家の家計資産が一夜にして毀損されたとか、不況になったら自分の仕事はどうなる?、とかそういう個人的な経済上の問題ではない。 私たちの子どもたち世代の将来に、何十年にも渡って根深く悪影響を与える取り返しのつかないことをしてくれた、という怒り・悲しみである.。

ロンドンは多文化で、だからこそ多様性に寛容で、リベラルで市場主義でクリエイティブでオポチュニティーに溢れている。 今年の5月に世界の大都市では歴史上初めてイスラム教徒を市長に選んだ。 アメリカでは「イスラム教徒入国禁止」などと叫んでいる人が大統領候補である一方で、イスラム教徒を市長に選んだロンドン*2を誇りに思ったLondoner(ロンドンっ子)は多いはずである。

今回の国民投票結果データはBBCのサイト(“EU Referendum”)で自治体別の結果が見られるが*3、私の住んでいるRichmond Upon Thamesは残留派69.3%、離脱派30.7%、以前住んでたLambethなど残留派78.6%、離脱派21.4%である。 これは外国生まれでイギリス市民権を持たない住人(800万人いるロンドン全体で200万人弱、私も含む)と選挙権があっても投票しなかった人口(若者が多い)、17歳以下の若者を含まずにこの率だから、体感的には残留派が大多数。 道理で離脱派は周りにほとんど見ないわけである。
あとは、谷本真由美*4「イギリスがEU離脱した理由」*5への反論。曰く、「今回、離脱票が最も多かったのは移民が最も少なかった地域であり、残留票が多かったのは移民が最も多かった地域である」*6。そして、

(前略)移民も来ないような地方の低学歴ワーキングクラス(労働者階層)・ミドルクラス(中間層)が、精神論でアンチエスタブリッシュメントなポピュリスト政治家の言うことを信じてしまったのである。 つまり日本で例えると地方のマイルドヤンキー(高齢マイルドヤンキー含む)が東京都民の大多数が反対するにも拘らず、右派に同調してしまいそれが「国民の声」として「民意」となってしまった、に等しい。

「学校が足りないのも病院が混んでるのも全部The Economistに書いてあるから、新聞読めよ」と言いたいところだが、まさにanti intellectualism(反知性)が勝ったのが今回の国民投票だった。 EUという巨大で複雑なインスティテューションを移民というわかりやすい争点一点で切り取ってしまった。

ちょっと別様の解釈も紹介しておく;

EU離脱の要因が色々言われている。その一つとして「移民」が指摘されている(6/25日経「英EU離脱」「グローバル化と成長に試練」)。

「移民」説はロンドンの現象を説明できていない。ロンドンの移民割合は39%(英国全体は12.3%)、残留支持は60%(ロンドンを除くイングランド全体の離脱支持は57%)。

「移民」説では、イスラム教徒のパキスタン系イギリス人市長のいるロンドンこそ離脱派が圧勝しそうであるが、実際には残留支持が上回っている。

ロンドンは最も開けた地域で、グローバル化の先進地帯だ。人々はその恩恵を受け豊かな暮らしを享受している。

6/25日経社説はIMFの試算を引用して離脱した場合に「2019年のGDPは残留した場合に比べ5.6%減少する」としている。だがこの引用は不正確である。この引用からは全英国民が影響を受ける印象を受ける。だが5.6%の減少は、殆どがEU加入で恩恵を受けていた地域、ロンドンが被ることになる。

ロンドン以外のイングランドグローバル化の恩恵が少なく、従って離脱によるダメージは少ない。むしろポンド安が進み、製造業や農業の輸出競争力が増して、プラスの効果が上回るだろう。

加入したままだとロンドンを脱出した人々に職を奪われるかもしれない。デメリットが多い。

ロンドンVSそれ以外のイングランドの対比を通じて、ロンドンからのトリクルダウンが機能していなかったことがよく分かる(ロンドンが独り占めしていた)。日本でも未だに好循環を唱える向きがあるが他山の石とすべきだ。
(「EU離脱 It's the economy, stupid」http://d.hatena.ne.jp/furumura/20160626/1466905760

また、嘆きとしては、


“Nostalgic elderly Brexiters have stolen my future” https://www.theguardian.com/commentisfree/2016/jun/26/education-erasmus-brexit-referendum


曰く、


The future of the younger generation in the UK has been decided against their wishes. A nostalgic older generation has shaken my identity and I no longer fully understand what it means to be British. The number of students wanting to pursue opportunities in another EU country is likely to decline; it remains unclear whether or not future generations will even have the opportunities that were made available to me, which moulded me into an outward-looking, inquisitive and ambitious British citizen.
この匿名さんは独逸のViernheimのブリティッシュ・カウンシルに勤務している。またEUの「エラスムス計画」*7に参加して丁抹に留学した。
また、辻仁成

フランス在住の辻仁成、英国のEU離脱に「ブラックユーモアだと」

2016年6月27日 15時51分

デイリースポーツ


 作家でミュージシャンの辻仁成(56)が26日、ツイッターを更新し、EUからの離脱を表明したイギリスに「一報聞いた瞬間、英国人が好きなブラックユーモアだな、と思った」と、にわかには真実だと受け入れられなかった心境を明かした。

 辻は現在フランス・パリに在住。同じくEUに加盟する国の突然の離脱に驚きは隠せないようで、「英国人が好きなブラックユーモアだな、と思った。でも、違ったんだね」とツイート。さらに「日に日に、どうなるんだろう、と…」というつぶやきとともに、小さな子供が遊ぶ写真をアップ。辻には12歳の一人息子がいるだけに、イギリスの、そして欧州の子供たちの将来を心配する様子をうかがわせた。

 イギリスのEU離脱に関しては、イギリス人の父と日本人の母との間に生まれたハーフタレントのハリー杉山が、イングランドに里帰り中にEU離脱の歴史的瞬間を迎え「くそっ」などとツイート。ショックの大きさをうかがわせていた。
http://news.livedoor.com/article/detail/11692960/

タイトルだけだけど、これもマークしておく;


茂木健一郎*8「今英国に求められる、EU離脱を撤回する勇気」http://blogos.com/article/181037/
おときた駿*9「失われつつある「政治家」そのものへの信頼…英国の「EU離脱国民投票結果は、民主主義国家が直面する岐路である」http://blogos.com/article/181030/

*1:http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160624/1466786481 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160625/1466881348 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160626/1466901676

*2:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160507/1462627559

*3:http://www.bbc.co.uk/news/uk-politics-36616028

*4:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130202/1359736589 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20140802/1406943404 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20140915/1410749257

*5:https://wirelesswire.jp/2016/06/54327/ 谷本さんが「投票」前の4月に書いた「イギリスのテック企業がEU離脱に反対する理由」はそれなりに客観的な記事(https://wirelesswire.jp/2016/04/51794/)。

*6:See Alan Travis “Fear of immigration drove the leave victory – not immigration itself” http://www.theguardian.com/politics/2016/jun/24/voting-details-show-immigration-fears-were-paradoxical-but-decisive

*7:http://www.erasmusprogramme.com/

*8:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060325/1143286174 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060517/1147842324 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080606/1212728195 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100104/1262582608 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110312/1299902687 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130707/1373185561 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20140819/1408461044 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20141208/1418006689 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160127/1453866712 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160204/1454576883 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160318/1458227297 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160320/1458409984 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160331/1459443800 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160604/1465000005

*9:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160410/1460301083 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160507/1462627559