蒲島郁夫 on 川辺川ダム

承前*1

東日本の八ッ場ダムに対しは、西日本では川辺川ダムということになるのか。
経済思想さんに教えて頂く。

蒲島郁夫「川辺川ダムについて」http://www.pref.kumamoto.jp/soshiki/18/kwb-chijihatsugenroku.html(Via http://ohtake.cocolog-nifty.com/ohtake/2009/09/post-dd38.html


2008年9月の熊本県議会での答弁。少し抜き書き;


ダム建設に反対する人々の中には、ダムを建設することで水害が拡大するとか、いかなる目的を持ったダムも認められない、との意見を持つ人もいらっしゃいます。しかし、私はこの意見に賛成することはできません。確かに想定以上の洪水に対応することは難しいと思いますが、想定以内であれば、ダムの水量調整により被害を食い止めることができます。

 ダムを単なる悪者として評価するのではなく、一つ一つのダムが真に必要なものなのか、本当に住民にとって恩恵をもたらすものなのかを冷静になって考えることが重要なのだと思います。

 一方、環境の観点では、ダムに反対する住民団体の方々は、ダムが水質や魚類、稀少生物に与える負の影響について、「ダムの致命的な欠陥」として懸念を示しております。このことがダム反対の大きな理由となっています。

 これに対し、国土交通省は「環境への致命的な影響はない」、「十分な環境対策をとる」としていますが、住民の理解が十分得られているとは言いがたいと思います。実際、有識者会議にとどまらず、私に寄せられたさまざまな御意見からも、多くの方々がダムを造ることによって環境が悪化するとの認識を持っておられます。私も、ダムが環境に与える負の影響は否定できないと考えています。


 そもそも治水とは、流域住民の生命・財産を守ることを目的としています。日本三大急流のひとつ球磨川は、時として猛威をふるい、そこに住む人たちの生命・財産を脅かすことのある川です。だからこそ治水が必要となります。そして、河川管理者である国は、その責任を全うするため、計画的に河川整備に取り組んでいます。このことは、まぎれもなく政治と行政が責任をもって果たすべきものです。

 しかし、守るべきものはそれだけでしょうか。私たちは、「生命・財産を守る」というとき、財産を「個人の家や持ち物、公共の建物や設備」と捉えがちです。しかし、いろいろな方々からお話を伺ううちに、人吉・球磨地域に生きる人々にとっては、球磨川そのものが、かけがえのない財産であり、守るべき「宝」なのではないかと思うに至ったのです。


 「過去の民意」は、水害から生命・財産を守るため、ダムによる治水を望みました。「現在の民意」は、川辺川ダムによらない治水を追求し、いまある球磨川を守っていくことを選択しているように思います。「未来の民意」については、人知の及ぶところではありません。地球環境の著しい変化や住民の価値観の変化、画期的な技術革新などによって、再びダムによる水害防止を望むことがあるかもしれません。その場合には、すでに確保されているダム予定地が活用されることになり、未来に向けて大きな意義があるものと思います。

私が今回の決断にあたって最も苦しんだのは、半世紀にわたりダム問題に翻弄されてきた、五木村の皆様のお気持ちにどう応えるかであります。

 五木村の皆さんは、下流の住民の安全のために、住み慣れた家や代々受け継いできた農地、御先祖の墓所などを手放すという苦渋の選択をされました。川辺川ダムの計画以来、村民の村外移転等による人口減少に歯止めがかからず、少子高齢化が著しく進んでいるという状況の中、愛する故郷の将来を心配される心情は、察して余りあります。

 私は五木の子守唄を愛唱した世代です。ご存じのように五木の子守歌には、悲しくつらい歌詞がたくさんあります。私の母は小さい時高等小学校に行けず、五木の子守歌を歌いながら子守をして家族の生活を支えたと言っていました。私が初めて五木村を訪れたのは、選挙戦のさなかでした。それ以来、何回も訪問しています。行くたびに和田村長はじめ村の方々にはいつも暖かく迎えていただいています。知事選でもたくさんの支持をいただきました。

 その私が、知事として、ダムによる五木村の振興を待ち望んでおられている和田村長以下村の人々のご期待に沿えないことになり、とても胸が痛みます。とりわけ、支持してくださった方のことを思うと、とても悲しく思います。

 ただ私は、誰よりも強く五木村の苦難の歴史に応えなければならない、と思っております。確かに、これまでの仕組みによる振興策は困難になるかもしれません。しかし、村の意見を十分にお聴きしながら、私自身が本部長として、村の人口構成と特性を活かした、夢のある新たな五木村振興計画策定に取り組む覚悟です。国に対しても、県とともに対策を講じるよう強く求めていく考えです。