承前*1
- 作者: 張江洋直,佐野正彦,井出裕久
- 出版社/メーカー: 白菁社
- 発売日: 1997/04
- メディア: 単行本
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「成熟」に関して、安藤究「成熟の社会的文脈と「大衆長寿社会」 年をとれば成熟するのだろうか」(in 『ソシオロジカル・クエスト』、pp.160-176)から(多分「モグラ」さん*2は御存知だろうけど)自分用にちょこっとメモ。
先ず、米国の人類学者D. W. Plathの所説の紹介;
また、ジェンダーと加齢を巡っての
プラースの視角の特徴は、成熟とは個人の営みのみでえられるのではなく、関係の深い他者たちとの長期にわたる共同製作の産物とする点にある。この関係の深い他者たちは「道づれ(convoy)」と呼ばれ、ある一定期間、ある程度の親しさをもって個人が関係をとり結ぶ人びとを指す。家族であったり友人であったり、具体的にどのようなカテゴリーの人びとであるかは、場合によって異なる。この「道づれ」たちとの長いかかわりあい(long engagement)のなかで、お互いの状況を確認したり互いに説得しあったりする過程のなかから、中核的な自己イメージ(個人のさまざまなアイデンティティを束ねてばらばらにならないようにする役目を果たすもの)が形成され変化していくということであり、この中核的な自己イメージ=持続する自己イメージ(perduring self-image)の形成・変成過程が「成熟」の過程と捉えられている。「道づれ」たちとの成熟の共同製作を、プラースは談話(ディスコース:discourse)としての成熟という概念で捉えているが、分析的には「確認(identification)」、「正当化(justification)」、「投企(projection)」という3つの作用がそこに働いているということである。(後略)(pp.163-164)
という一節も。
男性のライフコースにおける座標軸の転換は、男性の主体としての尊厳を脅かすものでもある。女性の場合、「おばあさんの知恵」「おばあさんの味」という表現が依然として家庭雑誌に登場するように、家事労働の責任者=女性には定年がないので、高齢期に入ったからといってすぐに「役立たず」になるわけではない。それに対して男性は、それまで生産者として貨幣を労働の代価として受け取ることがその威信の源であったため、生産労働の場から離れることが主体性の確保を脅かすほどの危機となるのである。
平均余命の伸長は、ライフコースにおける座標軸の転換を経験して主体としての尊厳が脅かされる男性高齢者を、大量に社会のなかに産出することとなった。ところがこの人口学的な変動は非常に急速に進行したので、この座標軸の転換の助けとなるような「標準的文化的時刻表」の再編成は完成されておらず、その結果、男性の成長・成熟が高齢期にとくに困難となる状況がもたらされているのである。(p.175)