7ではなくて8

小杰「語言需要捍衛麼?」『書城』2008年9月号、pp.105-106


上の文章を読んで、英国の言語学者David CrystalのTxtng: the gr8 db8(Oxford University Press)という新著が出ていることを知る。
インターネットと若い衆やガキどもの言葉の乱れという言説は日本でもありふれている。英語圏でも、ケータイ・メイルなどを中心に、例えば1daful(wonderful)、C%l(cool)、hak(hugs and kisses)といった言葉が氾濫している。これに対して、西洋文明の終わりじゃといったノリの大人たちの言説も盛んであるらしい。
David Crystelによると、こうした言葉遣いの機能の1つはプライヴァシー(私密性)の保持である。その背景として、自動車という逃げ場がある米国の少年少女とは違って、英国の少年少女には親や家族の目から逃れられるプライヴェートな空間があまりないということがある。
〈言語の乱れ〉論に対して、クリスタル氏は、こうした言葉遣いの多くは母音の省略や語呂合わせからなっており、子どもがこうした言葉遊びをするのは正規の綴りを知っていることを前提としていると反論している。また、これは、既に真っ当な英語として認められている(例えば)P.S.=postscriptなどと同じ原理である。さらに、特にこうした反応も特に「新鮮」なものではなく、印刷術とか電報が発明された際の大衆的ヒステリーの反復にすぎないという。
ところで、gr8 db8を普通の(つまり英語の試験で正解にしてもらえる)英語に直せば、great debateになる。これを見て、greatのgradeをgr0からgr10までで表示できるのではないかと思ったのだが、如何だろうか。
David Crystalは『消滅する言語』の著者だった。

消滅する言語―人類の知的遺産をいかに守るか (中公新書)

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