
- 作者: R.M.W.ディクソン,大角翠
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2001/06/20
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ディクソン*1『言語の興亡』(大角翠訳)*2を読了したのは先週のこと。
本書の理論的な狙いは、ナイルズ・エルドリッジとスティーヴン・ジェイ・グールド*3の「断続平衡(punctuated equilibrium)」モデル*4を言語進化に適用することであろう(p.4)。すなわち、「進化」には変化の少ない「平衡期」と急速な変化(分岐)が起こる「中断期」がある。また、そのことを通じて、言語間関係についての「系統樹(family tree)によるモデル」と「言語圏(linguistic area)によるモデル」とを「総合する」こと(p.3)。或いは、前者(比較言語学における〈語族〉至上主義)を相対化すること。「言語の系統樹モデルが適用できるのはこの、非常に長い平衡期の間に挟まっているごく短い中断期なのである」(pp.4-5)。また、言語学の形式化*5に抗しての記述言語学の復権である(p.182ff.)。言語学者は「形式文法」の洗練に現を抜かしていないで、現にある(あった)言語の記述(記録)を行わなければならない(See p.187ff.)。また、踏まえておかなければいけないのは、著者の理論的関心及び言語学者への提言の背景であろう。近代に入って、マイナーな言語の絶滅*6が加速していること。また、
謝辞
はじめに
第I章 序説
第II章 ことばの伝播と言語圏
第III章 系統樹モデルはどこまで有効か
第IV章 言語はどのように変化するか
第V章 断続平衡モデルとは何か
第VI章 再び祖語について
第VII章 近代西欧文明と言語
第VIII章 今、言語学は何を優先すべきか
第IX章 まとめと展望
補論 比較方法の発見手順では見誤ってしまうもの
訳者あとがき
参考文献
この意味で、著者の動機は例えば『消滅する言語』*7のデヴィッド・クリスタルと共通している。
(前略)この二〇〇〇年は――特にこの数百年間は――かつてこれほどの変化が起きた時期はないと言えるくらい格別の中断期なのである。世界的な宗教、帝国主義の出現、銃の発明、書記法の確立その他の要素が組みあわさり、一部の人々とその人々の言語が勢力を増し他を制圧するに至った。我々のように読み書きができ言語学を研究する人間もまた、この現象に加担した一員である。後略)(pp.5-6)

- 作者: デイヴィッドクリスタル,David Crystal,斎藤兆史,三谷裕美
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
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- 作者: レヴィ・ストロース,ジョルジュ・シャルボニエ,多田智満子
- 出版社/メーカー: みすず書房
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*1:See eg. https://research.jcu.edu.au/portfolio/robert.dixon/ https://en.wikipedia.org/wiki/Robert_M._W._Dixon
*2:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160428/1461814909
*3:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091213/1260686440 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20150128/1422442849 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20150309/1425874074
*4:本書で指示されている文献は、Niles Eldredge & Stephen Jay Gould “Punctuated Equilibria: An alternative to phyletic gradualism” in T. J. M. Schopf (ed.) Models in Paleobiology, pp.82-115, 1972である。
*6:See eg. http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090221/1235205500 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090312/1236796684 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100208/1265563636 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120513/1336930786
*7:Mdentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081009/1223532383