何故「連合王国」は流行らないのか

また、大月隆寛ちぇんちぇー*1。「伊藤さんの「義」と「善意」」と題して、


ボランティア、なんて呼ぶから心得違いも出る。かつては「義勇兵」と訳されていました。「義」に勇む。いい表現じゃないですか。こういう翻訳を可能にした明治時代の日本人ってのは、まっとうな国際感覚してたんだなあ、と思います。

 義勇兵なんだからそりゃ危ない。いくら憲法9条を日夜勤行、信心深く唱えたところで、世界はそんなこと知ったこっちゃない。死ぬことだってある。ましてや、渡航危険度世界トップクラスのアフガン。そんな土地であえて義勇兵として長年活動してきた中、今回遭難した伊藤和也さんは、彼の「義」に殉じたと言えましょう。農業技術の指導をしていた由。属していた団体はもともと医療活動から始まったNGO。「平和憲法」に信を置いた「義」によるボランティアだからこそ地元の人々の「信頼」を得ていた、それはある程度事実でしょうし、何より、その行為に向かわせるものはひとまず「善意」、ではありましょう。

 ならばなおのこと、そのボランティア=義勇兵の名にふさわしい程度の軍事的な知識や訓練を施してから送り出す、そんな選択肢は全くなかったのでしょうか? 丸腰の「善意」と、地元民との「信頼」だけで身を守れると信じるのはご自由ですが、「義」と「善意」だけで同胞をこのいまだろくでもない世界にほうり出す、そのことに対する責任感の所在ということになると、はて、どうもよく見えてきません。

 「アフガニスタンにもその国民にも今回の事件についての糾弾はしない」と、当のNGO幹部は海外メディアの前で英語でタンカを切ってみせました。その表情に、紋切り型な外務官僚の答弁などとまた別の意味での、「善意」で人を死地に追いやる立場の「いやな感じ」を抱いたのは、さて、あたしだけでしょうか。
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/dan/175735

よく文意が掴めない。とにかく「憲法9条」を憎悪しているだろうということは読み取れる。また、「ボランティア」*2を「義勇兵」と訳さなければならず、それ故にヴォランティアは「兵」として行動しなければならない、ということか。後の「義勇兵」問題については、http://d.hatena.ne.jp/pr3/20080904/1220540319http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20080905/1220604403に批判が出ていて、今のところ、それらに付け足す必要はないと考える。そもそもvolunteerは(自発的に)志願するという動詞であり、そのように志願する者という名詞である。そもそも志願者とか有志という一般的な意味に訳すべき言葉であって、偶々軍に関わるときには、志願兵とか義勇兵と訳すというにすぎない。
さて、http://d.hatena.ne.jp/pr3/20080904/1220540319だが、大月の英文怪釈を批判するにあたって、Englishの例を出しているのはあまりよろしくない。どうせなら、presidentを例とした方がよかっただろう。或る組織のトップという一般的な意味があって、それが会社に関わるときには社長、国家に関わるときには大統領、学校に関わるときには校長とか学長と訳し分ける。
さて、ヨーロッパの西にある島の倫敦という都市を首都とする王国のことを中国語や日本語では英国という。勿論、私も慣例に従って、この王国のことを英国と書くことが多い。でも変だ。英はEnglandのことで、この王国の支配的な民族の領域であるとはいえ、一部にすぎない。歴史的経緯としては、Englandが周辺の地域・民族を征服・統合して、今の王国が形成されたということはあるのだが。或る(中国語が少しできる)英国人が中国語の(また日本語の)英国という言葉に腹を立てていた。彼はスコットランド人だったから。
この中国語や日本語の単語ができた19世紀ならともかく、現代において、この王国のことを英語でEnglandと呼ぶことって、そんなにあるのか。私は殆ど見たことがない。というか、長ったらしいこの王国の略称であるUnited Kingdom(=UK)と呼ぶのが標準的なのではないか。或いは、この王国の主要な領土であり、Englandの他にScotlandやWalesを含む島であるBritain(Great Britain)。EU統合以前には、この王国で製造された物品にはMade in Great Britainと表示されていた。
さて、日本ではこの王国を示すのに、専ら英国或いは(やはりEngland若しくはEnglishが訛った)イギリスが使われ、グローバル・スタンダードである筈の連合王国という言い方は(多分外務省方面を除いて)殆どされない。Britainもブリテンはあまり使われないし、形容詞として、ブリティッシュ・ロックとかブリト・ポップといった感じでしか使われていない。私は仕事の関係で、忠実にUKを連合王国、Britainをブリテンと訳して、先方から全て英国に直してくれと求められたということがあった。これは何故なのか、検討に値する問題であろう。

*1:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070206/1170727144 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080130/1201705768 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080822/1219381476 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080823/1219469713

*2:大月に限らず、このことは言っておかなければならない。ちゃんとヴォランティアと表記しろ!