藝術/非藝術?

http://d.hatena.ne.jp/n-291/20080219#p7にて知る。
『産経』配信の記事;


メイプルソープ写真集は「わいせつ」に当たらず 最高裁判決、時代の流れ考慮か
メイプルソープの写真集がわいせつ書籍に当たるかが争われた訴訟の上告審で、最高裁はわいせつには当たらないと判断。インターネットの普及などで性的描写に触れる機会が増えており、こうした社会意識の変化を考慮したとみられる。
2008年02月19日 11時52分 更新

 男性器の写真が掲載された米国の写真家、ロバート・メイプルソープ氏の写真集が、輸入禁止のわいせつ書籍に当たるかが争われた訴訟の上告審判決が19日、最高裁第3小法廷であった。那須弘平裁判長は、税関の輸入禁止処分を認めた2審東京高裁判決を破棄、わいせつ書籍に当たらないと判断し、税関の処分を取り消した。判決は裁判官4人の多数意見。

 最高裁が、下級審のわいせつ書籍認定を否定するのは、過去に例がないとみられる。

 那須裁判長は、写真集について「メイプルソープ氏の写真芸術の全体像を概観するもの」と判断。また、芸術的な観点から編集されていることや、384ページの写真集のうち、男性器の写真は19ページにとどまっていることなどを総合的に考慮し、写真集は性欲を刺激するようなわいせつ書籍に当たらないと結論づけた。

 堀籠幸男裁判官は、写真集の一部は男性器を露骨に撮影しており、わいせつ性があると指摘したうえで「多数意見は写真集の芸術性を重くみすぎており、判断の仕方に問題がある」と反対意見を述べた。

 問題となった写真集は「MAPPLETHORPE」。米国の著名な出版社が発行し、国内では原告の男性の会社が平成6年に販売を始めた。約900部が売れ、国会図書館にも収蔵されている。

 判決によると、男性は11年、国内で出版したこの写真集を米国に持ち出した後、再び国内に持ち込もうとした際、成田空港の税関で、関税定率法に基づく輸入禁止品に当たるとされた。
時代の流れ考慮か 「袋とじの方がわいせつ」の声も

 雑誌のグラビアやインターネットの普及などで、近年は性的な描写をしたものに触れる機会が増加。また、かつては「わいせつ図書」として摘発された文芸書も、一般書店で普通に販売されている。メイプルソープ氏の写真集を「わいせつ書籍ではない」と判断した19日の最高裁判決は、こうした性表現に対する社会意識の変化を考慮したとみられる。

 わいせつとは何かが争点になった先駆けは昭和25年、性描写を含んでいた英国の小説「チャタレイ夫人の恋人」の訳者で文学者、伊藤整氏(故人)らが刑法のわいせつ物頒布罪で起訴された事件だった。

 この事件の最高裁大法廷判決(昭和32年)は、わいせつを「いたずらに性欲を興奮または刺激する」などと定義。この定義に当たるかの判断基準を「その時代の健全な社会通念」に求めた。判決で伊藤氏らの有罪が確定した。

 その後、判例が重ねられて、わいせつの判断基準はより精巧になったものの、最終的には社会通念に照らすという枠組みは変わっていない。

 ところが、平成8年にわいせつとして削除していた部分を掲載した完全訳の「チャタレイ夫人」が出版されても、「とくに問題になっていない。警察も何も言ってきていない」(出版元の新潮社)という。

 完全訳版の訳者の1人で伊藤氏の二男のエッセイスト、礼さん(75)は「週刊誌などで裸体のグラビアがあふれるようになり、世の中の感性が広がっているのでしょう」と話す。

 また、多くのヘアヌード写真集を手がけた出版プロデューサー、高須基仁さん(60)は「メイプルソープ氏の写真よりも、普通に売っている雑誌の袋とじの方がよっぽどわいせつだ」と、社会の激変を指摘した。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0802/19/news033.html

勿論この判決は歓迎すべきなのだろうけど、判決の根拠は藝術/非藝術の線引きに拠っている。 藝術/非藝術の線引きを国家権力(具体的には司法権)が決定するというのはどうなのか。また、何故憲法問題として争われないのかと問うこともできよう。
ところで、「メイプルソープ氏の写真よりも、普通に売っている雑誌の袋とじの方がよっぽどわいせつだ」というけれど、「袋とじ」とかぼかしとか黒塗りといった仕掛けの方が想像力というか(法律用語でいうところの)〈劣情〉を刺戟するということも考えられる。例えば、ゴダールの『カルメンという名の女』ぼかし問題。劇場公開されたときはフランス映画社によるこれは性交の場面ではありませんという抗議の字幕が入っていた。現在は「ヘア解禁版」のDVDも出てるんですね。
カルメンという名の女 [DVD]

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さて、李安の『色|戒』*1の日本公開はどうなっているのか。