「経費」ではない(最高裁)

朝日新聞』の記事;


外れ馬券の経費算入認めず 課税取り消し求めた男性敗訴
岡本玄2018年8月31日13時02分


 大量の馬券を購入した横浜市の元派遣社員の男性が、当てた馬券で得た収入は「事業所得」で、外れ馬券の購入費は経費として処理できると主張し、国を相手に課税処分の取り消しを求めた訴訟で、男性の敗訴が確定した。最高裁第一小法廷(小池裕裁判長)が29日付の決定で、男性側の上告を退け、国側が勝訴した一、二審判決が確定した。

 一審・横浜地裁の判決によると、男性は競馬予想プログラムでレース結果を分析して2009〜10年、少なくとも5060レースの馬券を約2億8千万円で購入。約3億円の払い戻しを受け、利益分が事業所得にあたると主張していた。

 一審は、すべての馬券購入をプログラムに任せず、自身の判断も加えていたことから「購入規模は大きいが、一般的な競馬愛好家の購入態様と異ならない」と判断。利益は「一時所得」にあたり、外れ馬券は経費として算入できないと結論づけ、二審・東京高裁もこの判断を支持していた。

 外れ馬券を巡っては最高裁が17年、年間3億〜21億円程度の馬券をネットで購入し、約1800万〜約2億円の利益を上げた購入方法について「営利目的の継続的な行為。利益を得るには外れ馬券の購入は避けられず、必要経費にあたる」と判断している*1。(岡本玄)
https://www.asahi.com/articles/ASL803J67L80UTIL00Q.html

2013年と2014年に大阪地方裁判所で「外れ馬券の購入費」を「経費」として認める判決が出ているので*2、今年に入ってから司法的判断の傾向が変わったのかと思ったのだけど、「すべての馬券購入をプログラムに任せず、自身の判断も加えていた」ということが一貫して問題だったのか。とはいっても、何故それが問題なのか、全然理解できないのだけど。ところで、その政治的スタンス(左翼か右翼か、リベラルか権威主義か)を問わず、はてなを中心とするネット界では、パチンコを含む博打には冷ややかな筈なのだけど*3、ブクマを見ると、この判決に批判的な意見が圧倒的に多いようだ*4。以前にこの「外れ馬券」を取り上げたときはあまり深く考えなかった。そもそも億単位で「馬券」を買うこと自体が病的だといえる。この「元派遣社員」氏も国税庁に文句言う前に、依存症のリハビリ施設に入るべきだよ。今回、莫大な追徴金を払わざるを得ないわけだけど、これは競馬依存症に対する治療効果もあるんじゃないのか? 「事業」か遊びかということが争点だったということだけど、億単位という規模もそうなのだけど、そもそも遊びじゃなくて「事業」として馬券を買うことは文字通りしゃれにならない。
ところで、数年前の段階でネットを通しての馬券購入は馬券の売り上げの半分を超えている*5。一方でカジノ解禁という流れがあって*6、日本の競馬というのは文化産業、娯楽産業として生き残っていけるのだろうかと思った。勿論、依存症患者の吹き溜まりとして生き延びていくということは大いにあり得るのだろうけど。競馬というのはそもそも生き物としての馬を中心に名馬や名ジョッキーの歴史=物語が集積され、それを媒介として、(日本では殆ど目立たないけれど)優雅な上流階級の社交場としての競馬場、それとは対極的な下層階級の居場所としての場外馬券売り場といったトポスを結晶化させてきたわけだ。馬券のネット購入では、そのような物語もトポスも関係ないということになる。仮にもカジノの方は「統合型リゾート」を名乗っているわけで、それに競馬は勝てるのだろうか。心配になる。
場外がある銀座は競馬がある日は朝からプロレタリアのおっさんたちの街になってしまう。その変貌ぶりはかっこいいと思った。