「10年後」?

「このままいけば10年後の日本は・・・」と題して、


 自民党政権が相変わらず継続。デフレが継続し、名目GDPも今とほとんど変わらない(あるいは下がるかも)。平均給与は今よりもさらに低くなり、正社員が今よりさらに半減。正社員というのは一部の一流大学出身者だけの特権になる。出生率もさらに低下。高齢化もすすむので、消費税がついに20%を突破。一方で法人税はさらに引き下げられ、所得税の累進性もさらに弱められる。あるいは人頭税の導入も検討されるかも。

 町には失業者やホームレスが溢れる。外国人労働者も急増し、各地に外国人街が見られるようになる。地方の荒廃はさらに進み、東京の人口が3000万人を突破。

 国民は相変わらず公務員が悪いだとか既得権益層が悪いと的外れな不満をため、そのたびに政府が「さらなる改革」を掲げ国民は拍手喝さい。対外的には政府が北朝鮮に対する強硬姿勢を取る。人々は感動し貧乏を一時的に忘れる。公園のダンボールハウス君が代を歌って日の丸を振る「貧民愛国主義者」と呼ばれる人たちが増加する。

  

 素晴らしい未来が待っている。楽しみだね。
http://d.hatena.ne.jp/miyatake_gaiko/20061019/p2

全体の主旨に反対ということではないのだが、2点ほど突っ込み。
外国人労働者も急増し、各地に外国人街が見られるようになる」ということになるのだけれど、「外国人労働者」は基本的に稼ぐために日本に来るので、日本の景気が悪くなれば、コストと収益のバランスが崩れて、目的地をシフトさせるのではないかと思う。「外国人労働者」にとっては、日本というのは(本国を含めた)選択肢のひとつにすぎないのだ。そこら辺はどうなのだろうか。また、上のシナリオが現実化するとすれば、「外国人労働者」といっていいのか、多国籍企業のビジネス・エリートが急増することも考えにくい。
また、「10年後」まで北朝鮮が都合よく存在していてくれるんですか。でも北朝鮮が〈核〉を持ってしまった以上、北朝鮮が滅亡してしまえば、どこに流出するかわかったものではない。『東京新聞』の姜尚中氏へのインタヴュー*1に、

 ――北朝鮮が核実験に踏み切った。その直前の三日には予告の宣言文を発表した。宣言文の意味と実験のタイミングをどう読むか。


 宣言文はよく練られているが、かなり悲壮だ。外務省が国内向けに発表しているのは体制引き締めを狙ったから。最も意識する米国に対しては「核保有国として認知されたいし、今となっては必然だ」というメッセージとともに「交渉の余地があり、非核化にコミットする」と伝えている。特に「核の拡散や核兵器流出は一切しない」という部分は核関連物質や核技術の流出、移転を恐れる米国の懸念を消そうとしている。

という一節があったのに気付いた。北朝鮮が強気である(北朝鮮にとっての)根拠のひとつには「流出」の問題があるわけだ。つまり、俺たちが滅んだら、核兵器はどっかに流出しちゃいますけど、それでいいんすかということである。
北朝鮮についての基礎知識として、田村秀男「北朝鮮を読み解くキーワード「首領国家」」*2は参照に値すると思う。田村氏の論説に価値があるのは、北朝鮮を巡る言説の多くが軍事とか政治から語られているのに対して*3、経済から語っているからだ。田村氏は北朝鮮の経済体制を、

北朝鮮の経済は中央政府(内閣)が主導する第一経済、軍事・軍需の第二経済、さらに朝鮮労働党に直属する党経済で構成される。この第二経済と党経済の上に君臨するのが「首領様」金正日であり、北朝鮮経済は国家経済と首領経済の二重構造にある。党中央財政経理部には「38号室」、「39号室」、「89号室」と符牒の付いた経済統括部門がある。金正日直轄の銀行「大聖銀行」、商社「大聖貿易」金融機関や企業は39号室所属というふうに、金融、工場・農場・牧場、商社が金正日の私営複合体を形成している。
と纏めている。田村氏によれば、「首領経済」には中国式の市場経済というオプションはあり得ない。そして、

制裁しようとしまいと、首領国家北朝鮮はグローバリゼーションの競争下ではもはや存続し得ない、金正日は支援しようが叩こうが生産的な結果は生まれそうにない。周辺国にとってはその崩壊時の混乱をいかに最小限に食い止めるか、という点で協調できる。
と最後のパラグラフの中で書いている。「10年」持つのかな。また、核兵器「流出」問題に関しては、田村氏の意見に従う限り、北朝鮮が存続しようが崩壊しようが、やばいことになる;

 首領経済系企業が生き残りをかけるのは輸出である。ところが一般の工業品には国際競争力がない。輸出して外貨を獲得できるのは、偽ドル札、麻薬、偽タバコ、そしてミサイルなど武器である。首領経済の頂点に立つ金正日はその体制を誇示するために核装備まで誇示している。ミサイルと同様、核までもが輸出商品になると踏んでいるのだろう。

 こうみると、金正日がなぜ米国のマカオの「バンコ・デルタ・アジア」口座にある20数億ドルの口座封鎖による金融制裁に怒り、六カ国協議をボイコットし、ミサイルの連射までして、米国との二国間交渉による金融制裁撤回に躍起になるか、理由が判然とする。金正日はこのまま次々と金庫を凍結されてしまい、首領経済体制が崩壊してしまうことを恐れたわけである。死活問題でそれこそ瀬戸際なのだから、中国が反対しようと盧武鉉政権が困惑しようと、日本で自称タカ派(水面下では北朝鮮系業者から資金提供を受けていると噂される政治家に限って強硬発言する)が台頭しようと、とにかくブッシュ政権に金融制裁を取り下げさせ、首領体制の保証を取り付けないことには生き延びられないという危機感を抱いているはずだ。


 「瀬戸際外交」手段としてミサイルを発射しているのではなく、瀬戸際だから発射しているのであり、国連が何と言おうと発射するしか米国から譲歩を引き出す術はないと首領金正日は考えるだけである。「外交巧者」と評するのはまさしく北朝鮮の本質の理解の欠如による過大評価である。そんなゆとりは金正日にはない。